こちらの動画はゾウリムシの電気走性の様子を撮影したものです。

一斉に移動する様子がすごいですよね!

実験の詳しい説明が記事の後半にありますので、ぜひご参照ください。

 

さて、水中の微生物であるゾウリムシ(Paramecium caudatum)は、その名の通り、顕微鏡で見ると草履(ぞうり)のような形に見える単細胞生物です。

ゾウリムシの写真
『高等学校 生物基礎』(第一学習社,2015)(183/第一/生基308)

 

体長は0.2 mm(200 μm)ほどで、バクテリアを食べて生きています。

分類としては、原生動物に分類されます。

 

単細胞生物とは言え、下の図のように、ゾウリムシには生命体に必要なものがすべてそろっています。

ゾウリムシの構造
『高等学校 生物基礎』(第一学習社,2015)(183/第一/生基308)

 

核があり、口があり、消化器官があり、排せつのための器官もあります。

また足の代わりになるのは細胞表面に生えた繊毛(せんもう)で、この繊毛を動かして水中を移動します。

 

ゾウリムシは中学校理科や高校生物の教材としてよく知られており、収縮胞や消化器官の観察、電気走性の実験などに使われています。

この記事では、麦茶培地を使ったゾウリムシの簡易的な培養方法と、電気走性の実験について紹介します。

ゾウリムシの簡易的な培養方法

ゾウリムシの生息場所は、水田、河川、池や沼などです。

近くに水田などがあれば自分で採りに行くこともできますが、実験のたびに採りに行くのはやはりたいへんです。

自分で培養できれば、少なくとも一年くらいはゾウリムシを継続して使用できて便利です。

 

さて、その培養方法ですが、2017科学教育研究協議会関東ブロック学習会(11月4日、高崎市)にて、濱中修先生からとても簡単な方法を教えていただきました。

教えられた通り実践してみましたので、その様子をここで紹介したいと思います。

麦茶培地の中のゾウリムシ

濱中先生から分けていただいたゾウリムシがこちらです。

「麦茶培地」を入れた小さなペットボトルでいただきました。

麦茶培地の中のゾウリムシ

 

拡大すると、細長い白いつぶつぶが見えると思います。

これがゾウリムシです。

いっぱいいますね。

麦茶培地の中のゾウリムシ(拡大)

 

培地は麦茶がいいそうですが、どんな麦茶でもいいわけではありません。

おすすめはサントリーフーズ株式会社の「やさしい麦茶」です。

防腐剤(ビタミンC)が入っていないため、培養に適しているとのことです。

「やさしい麦茶」はゾウリムシにもやさしい

 

これを希釈せずにそのまま使います。

ちなみに自分で煮出した麦茶を使う場合は、「つぶまる麦茶」(小川産業株式会社)がいいそうです。

新しい麦茶培地に移す

十分に増殖したら、新しい麦茶培地に移します。

上記の写真の状態が「十分に増殖した状態」だったので、このくらいの密集度を目安に培地の入れ替えを行うと良いでしょう。

あまり増えすぎると酸素不足などで死んでしまうそうです。

 

さて、入れ替える容器ですが、培養フラスコがベストです。

もちろんペットボトルでも十分に代用可能です。

今回は大きめのペットボトルに移し替えることにしました。

 

新しい麦茶培地に移し替える前の状態

こちらが入れ替える前の状態です。

新しい培地への移し替えは、3倍希釈を目安に行うと良いそうです。

 

新しい培地となるペットボトル(写真右)は、元のペットボトル(写真左)よりも十分に大きく、麦茶培地の量はおよそ3倍です。

ゾウリムシが増殖した古い培地を、新しい培地に流し込みます。

 

新しい麦茶培地に移し替えた後の状態

こちらが移し替えた後の状態です。

古い培地を流し込んでも、新しい培地の液面はペットボトルの口よりかなり下に来ています。

 

これが実は重要で、培地の液面は、できるだけ広い面積で空気に触れさせておく必要があります。

ゾウリムシに十分な酸素を供給してあげるためです。

 

そして、ペットボトルの口は緩めておきます。

閉めると窒息しますね……。

必ず緩めておいてください。

培養フラスコの場合はふたが無いのですが、口を開けたままにしておくとゴミが入るので、アルミホイルなどをかぶせておくと良いでしょう。

 

なお、遠方に持ち運ぶような場合には、どうしてもペットボトルの口を閉める必要が出てきます。

そのようなときには、金魚飼育用などで売られている「酸素を出す石」を利用します。

中に入れておけば移動中の酸素欠乏を防ぐことができます。

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移し替えの頻度

室温にもよりますが、夏場は2週間に1度、冬場は1か月に1度を目安に移し替えを行うと良いでしょう。

この方法を継続することで、少なくとも1年くらいはゾウリムシを培養し続けることができます。

ゾウリムシの電気走性の実験

いろいろな走性

ゾウリムシはいろいろな走性を持っています。

「走性」とは、環境条件に勾配があるとき、その勾配に沿って、高い方あるいは低い方へと移動する性質のことを言います。

いくつか走性の例を挙げたいと思います。

温度走性

温度勾配のある溶液中で、ある温度域に向かって移動する性質です。

「走熱性」とも言います。

ゾウリムシは、高温あるいは低温の場所から培養温度に近い場所へと移動します。

ちなみに大腸菌の場合、相対的に温度の高い方へと移動します。

重力走性

重力と同じ方向、あるいは重力と反対方向に移動する性質です。

ゾウリムシは重力と反対方向に泳ぎます。

反対方向に移動するため、特に「負の重力走性」と言います。

光走性(ひかりそうせい)

明るさに反応して移動する性質です。

「走光性(そうこうせい)」とも言います。

ゾウリムシは明るい場所から暗い場所へと移動します。

化学走性

化学物質の有無や濃度差によって、一定の方向に移動する性質です。

「走化性」とも言います。

化学物質のある方へ移動するか、化学物質から遠ざかる方へ移動するかは、化学物質の種類や濃度によって異なります。

前者を「正の走性」、後者を「負の走性」と言います。

 

ゾウリムシの場合の例を挙げると、

  • 酢酸:0.1〜0.06%(pH 3.38〜3.90)で負の走性、0.04〜0.01%(pH 3.91〜4.05)で正の走性。
  • 炭酸ナトリウム:0.1~0.04%(pH 11.48~11.29)で負の走性、0.02~0.01%(pH 11.01~10.2)で正の走性。
  • 塩化ナトリウム:0.1%(pH 5.60)で負の走性、0.05%(pH 6.08)で正の走性。ただし、0.025%(pH 6.08)では化学走性はほとんど見られない。

 

これらのデータは、丸岡禎『教材としての原生動物(3)−ゾウリムシII』(原生動物学雑誌38,115−132,2005)を参考にしました。

ちなみに大腸菌の場合、アミノ酸や糖などの栄養物質には近づき、金属イオンからは遠ざかる、という化学走性を示します。

電気走性

直流電圧がかかったとき、陰極側あるいは陽極側へと移動する性質です。

「走電性」とも言います。

ゾウリムシは陰極側に集まります。

電気走性の観察

今回実験で観察するのは、電気走性という性質です。

概要

直径5 ㎜の炭素電極を使い、乾電池で1.5 Vの電圧をかけます。

すると、ゾウリムシは陰極に集まってきます。

炭素電極がなければ、シャープペンシル用の極太の芯(例えば1.3 mm径)でも代用できます。

実験の手順

まずはビーカーなど少し大きめの容器に、ゾウリムシが十分に増えた培養液を注ぎます。

そして、電気走性を利用して、陰極側にゾウリムシを集めます。

陰極の周りにゾウリムシが集まってきたら、密集度の高い部分をスポイトで吸い取り、シャーレに移します。

これで、ゾウリムシが高濃度で入っている水溶液を準備できました。

 

次に、シャーレを黒い画用紙の上に置きます。

そして、真横からLEDライトで照らします。

こうすることで、黒い背景の中に白く照らされたゾウリムシが浮かび上がります。

これで準備完了です。

 

いよいよ実験です。

電池ボックスにつなげた状態の2本の電極(陽極と陰極)を、同時にシャーレの中に入れます。

すると……。

実験結果

電極を入れると、ゾウリムシは一斉に陰極側に集まり始め、逆に陽極側からは遠ざかっていきます。

動画でその様子をご覧ください。

 

 

動画では、途中で電極の位置を入れ替えていますね。

電極を入れ替えると、今まで集まっていたところが陽極になりますので、集まっていたゾウリムシは散り散りになります。

そして、新たに出現した陰極側へと移動していきます。

 

以上がゾウリムシを使った電気走性の観察方法です。

簡単にできますので、ぜひ挑戦してみてください。