これからボーリング標準貫入試験を行う工事現場。掘削用の鉄パイプをセッティングしているところ
これからボーリング標準貫入試験を行う工事現場。掘削用の鉄パイプをセッティングしているところ(©︎Richard Lane / flickr

地盤をくり抜いて調査する「ボーリング標準貫入試験」

街中を歩いていると、古い建物が取り壊された更地に、「マンション建設予定地」の看板が立っているのをよく見かけます。

「こんなにたくさんマンションを建てて、住む人がいるのかな」と心配になるくらい、都会の駅近くには多いのですが、そのような工事現場で長い杭を打ち込んでいるところを見たことがあるでしょうか。

 

まだマンションの基礎もできていない更地に鋼鉄製のパイプで三角形の櫓(やぐら)を組み、その頂点から下向きに、ガンガンと杭を打ち込んでいるあの光景。

一体何をしているのかと言いますと、「ボーリング標準貫入試験」と呼ばれる地盤調査を行っています。

 

いわゆる「ボーリング調査」のことですが、ボーリングとは、「くり抜くこと」を意味する英語の名詞です。

スポーツ競技の「ボウリング」とは別物で、英語のつづりが違うのはもちろんのこと、日本語のカタカナ表記もしっかりと区別されています。

 

というわけで、その名の通り「ボーリング標準貫入試験」では、まず地面に穴を空けながらその下の地盤をくり抜いていきます。

具体的には、先端に人工ダイヤモンドの研磨材が付いた鋼鉄製のパイプを地面に突き立て、垂直を保ったままグリグリと回転させ、地面に埋め込んでいくというやり方です。

 

でも、これだけではただのボーリング。

途中まで掘り進んだら、名前の後半にある「標準貫入試験」が行われます。

「標準貫入試験」とは、地盤に杭(鉄パイプ)を打ち込んで、その刺さり具合から地盤の強度を測る試験です。

標準貫入試験では地盤の強度を測る

これからボーリング標準貫入試験を行う工事現場。掘削用の鉄パイプをセッティングしているところ(©︎Richard Lane / flickr)

 

標準貫入試験の手順をざっくりと説明しますと、ボーリングの穴あけ作業が深さにして1mほど進んだところで、まずは掘削に使っていた鋼鉄製のパイプを引き抜きます。

そして、今度は穴の底に、標準貫入試験用の一回り細い鉄パイプを降ろします。

この鉄パイプは先端の長さ1mほどがサンプリング容器になっていて、地盤に打ち込むことで、パイプの中に土や岩石の試料を採取することができます。

 

櫓から吊り下げた状態でこの鉄パイプを穴の底まで降ろしたら、鉄パイプの上端に「ノッキングヘッド」と呼ばれる釘の頭に相当する部分を取り付けます。

このノッキングヘッドを上から叩くことで鉄パイプを打ち込んでいくのですが、その時のやり方が厳密に決まっていて、「76cmの高さから63.5kgのおもりを落下させる」という方法。

おもりを落とす時も、櫓から吊り下げた鉄パイプ(ノッキングヘッドに接続されています)に沿って落とすので、いつも正確に、同じ条件で打ち込むことが可能です。

 

こうして鉄パイプを地中に打ち込み、30cm打ち込むのに必要な打撃回数を記録します。

この時の打撃回数が「N値(エヌち)」と呼ばれる地盤強度の指標で、例えば30cm打ち込むのに4回おもりを落としたなら、N値は「4」。

N値が高いほど硬い岩盤と言えるわけですね。

 

N値の上限は基本的には「50」で、地下深くの硬い岩盤では、50回打ち込んでも30cmに達しません。

50回打ち込んだ時の貫入量が1cmに満たない岩盤は、「貫入不能」と記録されます。

 

これが標準貫入試験の大まかな流れで、一連の作業が終わったら岩盤に打ち込んだサンプリング容器を引き抜き、再び先端に研磨材が付いたボーリング用の鉄パイプを降ろし、岩盤を下へ下へと掘り進みます。

そして、次の1mを掘り進んで深さ2mに達したら、標準貫入試験の2回目を実施し、深さ2mにおけるN値を記録します。

このようにして1m間隔でN値を測定することで、その土地の地盤の強度が深さ方向にどのように変化していくのか、明確にわかるのです。

 

なお、どんどん掘り進めていったら鉄パイプの長さが足りなくなりそうですが、鉄パイプは何本でも継ぎ足せるようになっているので、その心配はありません。

岩石の種類や地下水面の位置もわかる

Photo: Pixabay

 

ボーリング標準貫入試験でわかるのは、地盤の強度(硬さ)だけではありません。

サンプリング容器で採取した土や岩石を調べることで、地下にどんな岩石、あるいは土があるのかも知ることができます。

例えば粘土と小石が混ざった土が表層にあり、その下に風化した花崗岩があり、さらにその下には硬い花崗岩の岩盤がある、といった具合です。

 

ただし、標準貫入試験で得られた土や岩石の試料は、大まかな判別にしか使うことができません。

研究目的で本格的に地下の岩盤の性質を調べるには、サンプリングに特化したボーリングを行う必要があります。

標準貫入試験の方法では、打ち込みの衝撃で試料が崩れたり圧縮されたりしてしまいますし、穴の底には削りくずとして、その深さより高い位置の土や岩石が混じります。

 

また、標準貫入試験は1mおきに「30cm打ち込むのに必要な打撃回数」を測定するものなので、採取できる試料も1mの区間につき最大30cmだけです。

ですので、もっと連続的に地下の様子が知りたい場合には、この方法のサンプリングでは不十分ということになります。

とは言うものの、マンション建設予定地で地盤の様子を知るにはこれで十分であり、とても有効な方法として広く使われています。

 

あともう一つ、ボーリング標準貫入試験でわかる貴重な情報は、地下水面の位置です。

1mおきに試料を採取していくとどこかの深さで水浸しの試料が得られ、その深さに地下水面があることがわかります。

地下水面が高い(地表から10m以内)と地震の際の液状化のリスクが高くなりますので、地下水面の高さは建設事業にとってとても重要なのです。

参考文献

ジャパンホームシールド株式会社『ボーリング調査とは?地盤強度を知る目的と調査結果の見方、費用』(2019年3月26日)

株式会社フジタ地質『ボーリング調査

ジオテック株式会社『ボーリング標準貫入試験

海上・港湾・航空技術研究所『ボーリング調査(サンプリング)

YouTube『2015年基礎塾(大阪)現場実演「標準貫入試験」【実演:株式会社土木管理総合試験所】

大林組『特集 液状化現象のメカニズム

もっと知りたい人のためのオススメ本

渡邉克晃『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』(ベレ出版,2022)

書影『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』渡邉克晃(2022年11月18日刊行)
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※この記事の内容を含め、身近な地質学の話題がたくさん紹介されています。

工事現場で打ち込んでいる長い杭。いったい何をやっているの?(渡邉克晃『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』より)