トンネルを掘るなら、あまり硬くない岩盤(柔らかい岩盤)の方が削りやすくて適しているように思えますが、実はそうでもありません。
柔らかい岩盤というのは「崩れやすい岩盤」ということであり、掘ったトンネルが崩れてこないように、入念な補強をしなければならないからです。
例えば、断層によって岩盤が破砕されている場所(破砕帯)がトンネルの工事区域にあったとしましょう。
その辺りの岩盤はバキバキに割れているので、割れていない硬い岩盤に比べて、掘り進むのはとても簡単です。
しかし、岩盤の強度が低いために、せっかく堀ったトンネルの壁面が崩れてきてしまいます。
通常、トンネルの壁面は、①鋼鉄製のフレーム、②吹付けコンクリート、③岩盤に打ち込む長いボルト、の3つによって補強されますが、崩れやすい岩盤の場合にはこの工事を二重に施すなど、特別な対策が必要になります。
破砕帯だけでなく、そもそも岩盤全体が崩れやすい砂や小石の地層からなる場合にも、同じことが言えます。
また、粘土質の岩盤も要注意です。
粘土質の岩盤は、花崗岩などの硬い岩石に比べれば格段に強度が低いものの、かと言って破砕帯や砂の地層のようにぼろぼろと崩れてくるわけでもないので、一見するとトンネル工事に都合の良い岩盤のように思えます。
しかし、代表的な粘土鉱物の一つであるスメクタイトには、水を含むことで膨張する性質があり、スメクタイトの多い粘土質の岩盤にトンネルを掘ると、壁面や床面が膨れてきて工事が大変やりにくくなります。
その膨れる威力は、せっかく作った壁面の補強を破壊してしまうほど。
粘土質の岩盤が膨れるしくみはこうです。
トンネルを掘るような地下深くは地下水に満たされていますので、スメクタイトはすでに水を含んだ状態。
トンネルを掘る前には、膨張しようとするスメクタイトを周囲の岩盤がギュッと押さえつけていたので、膨れることができませんでした。
そのように力のかかった状態の岩盤にトンネルを掘ると、そこだけスメクタイトを押さえつけていた力がなくなります。
その結果、スメクタイトの膨張を引き起こしてしまうのです。
スメクタイトを押さえつけていた岩盤がなくなった分、今度はそれを人工的に押さえつけるための工事が必要になるわけですね。
対策としては、崩れやすい岩盤の時のように補強を二重にしたり、掘削と補強工事のインターバルを短くして、変形がひどくなる前に早期に補強したりするなどの方法が取られます。
トンネル工事に適しているのは、一般に硬くて割れ目の少ない岩盤です。
硬くて割れ目が少ないと、掘削したトンネルの壁面がなかなか崩れてきません。
そのため、通常の補強工事を行うだけで十分な安全性が得られ、効率よくトンネルを掘り進めることができるのです。
岩盤が硬いと掘るのに労力がかかるのは確かですが、掘りにくさよりも崩れやすいことの方が、トンネル工事においてはデメリットなのです。
参考文献
土木学会トンネル工学委員会『岩盤分類と標準設計法の実際』
もっと知りたい人のためのオススメ本
渡邉克晃『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』(ベレ出版,2022)
※この記事の内容を含め、身近な地質学の話題がたくさん紹介されています。