広島県の特別名勝、三段峡(さんだんきょう)。三段峡は流紋岩と花崗斑岩(かこうはんがん)からなる約16kmの渓谷で、その流路には二段滝(にだんだき)や三段滝(さんだんだき)をはじめとする多くの滝が見られます。滝の部分では河川侵食の影響が最も大きく、これらの滝が侵食によって上流に向かって後退していくことで、その下流に深い谷ができていきます。
三段峡水梨口(みずなしぐち)から遊歩道に沿って進むと、西へ向かう遊歩道の終点にあるのが猿飛(さるとび)と二段滝(にだんだき)。猿飛とは、両側に切り立った岩壁のことで、その狭い隙間を猿が飛び移ることに由来する名前だそうです。猿飛と、その先にある二段滝には渡し舟で向かいます。
二段滝から遊歩道を引き返して、河川の合流地点から今度は北へ向かいます。こちらの遊歩道の先にあるのが三段滝。
三段滝のあたりは流紋岩でできていて、垂直に近い割れ目がよく発達しています。このような割れ目を節理(せつり)といい、流紋岩の場合、花崗岩のサイコロ状の節理とは見た目が大きく異なります。
三段滝を構成する3つの滝の高さは、下段が約10m、中段と上段が8〜9m。滝壺の深さは約10mもあります。この滝は今も侵食によって、上流方向に少しずつ後退しているということです。
水梨口(みずなしぐち)からスタートする遊歩道は、だいたいこの辺りまで。水梨口に引き返す途中、流紋岩の節理を間近に見ることができました。
流紋岩の表面には固着性地衣類がよく見られました。地衣類とは、お墓の石などに付いている苔のような生物です。
地衣類に覆われていない部分、つまり新鮮な断面は、青灰色。これが流紋岩の本来の色ということになります。流紋岩の特徴である白っぽい斑晶も確認できました。
さて、三段峡には水梨口のほかに、もう一つ「正面口」という入り口があります。水梨口から歩くルートよりも下流側に位置する入り口で、女夫淵(めおとぶち)を通って黒淵(くろぶち)までの遊歩道が整備されています。
しかしながら、私が撮影に行ったときは女夫淵から先が通行止めになっていて、黒淵までは行けませんでした(2021年11月時点)。
女夫淵は、大小二つの淵が寄り添うように続いているエリアです。地形が急峻な三段峡の中でもこのあたりは特に両岸が切り立っていて、その間にできた深い淵を水が静かに流れています。
女夫淵から先を断念し、引き返すと、遊歩道の山側に鮮やかな赤い滝が現れました。その名も「赤滝(あかだき)」です。
赤滝は、表面に付着している紅藻類のタンスイベニマダラ(Hildenbrandia jigongshanensis)のために、鮮やかな赤色に見える滝です。赤滝は三段峡の本流に流れ込む支流の末端部分で、本流の侵食作用が激しいために支流との間に段差ができてしまって、その段差が滝となりました。このような地形を懸谷(けんこく)といいます。
女夫淵から正面口へと引き返しながら渓谷を眺めると、上流側から下流側を眺めることになります。そうすると、往路では気づかなかった新たな風景が見えてきました。行きと帰りで、見える景色って変わるものなのですね。
こちらの険しい侵食地形は、「竜ノ口(たつのくち)」と呼ばれています。
竜ノ口は、狭くて深い水路の吐き出し口に付けられた名前です。竜ノ口の上流側には、岩盤を深くえぐって流れる細長い水路が、竜を思わせる姿で続いています。
この辺りはゴツゴツした岩肌が特に美しかったです。雨上がりということもあり、岩の質感がきわ立っていました。
場所の情報
三段峡水梨口
三段峡正面口