広島県の特別名勝、三段峡(さんだんきょう)。三段峡は流紋岩と花崗斑岩(かこうはんがん)からなる約16kmの渓谷で、その流路には二段滝(にだんだき)や三段滝(さんだんだき)をはじめとする多くの滝が見られます。
滝がある箇所では、河川による侵食の影響が最も大きくなります。侵食により、滝の段差の部分、つまり階段状の地形がだんだんと削られて、上流に向かって後退していくことで、その下流に深い谷ができていきます。
三段峡の水梨口(みずなしぐち)から遊歩道に沿って進むと、途中で分かれ道があり、西へ向かう遊歩道の終点にあるのが猿飛(さるとび)と二段滝(にだんだき)です。
猿飛とは、狭い間隔で渓谷の両岸にそびえる切り立った岩壁のことで、その隙間を猿が飛び移ることに由来して、このように名づけられたそうです。猿飛と、その先にある二段滝には渡し舟で向かいます。
猿飛の断崖を渡し舟でくぐり抜けると、周囲を岸壁に囲まれたやや広い空間に出ます。その正面にあるのが二段滝。
渡し舟は先に来ていたお客さんを乗せて戻るので、私たちが戻るのは次の舟が来た時です。それまでゆっくりと撮影できました。
さて、二段滝から渡し舟乗り場まで戻ったあとは、遊歩道を引き返して、こんどは河川の合流地点から北に向かいます。こちらの遊歩道の先にあるのが三段滝。
三段滝のあたりは火山岩の一種である流紋岩でできていて、垂直に近い割れ目がよく発達しています。このような割れ目を節理(せつり)といい、流紋岩の場合、花崗岩(深成岩の一種)のサイコロ状の節理とは、見た目が大きく異なります。
三段滝は、名前の通り3段の滝で構成されています。滝の高さはそれぞれ、下段が約10m、中段と上段が8〜9mほど。そして、滝壺の深さは約10mもあります。冒頭で触れたように、この滝は今も侵食によって、上流方向に少しずつ後退しているということです。
水梨口(みずなしぐち)からスタートする遊歩道は、だいたいこの辺りまで。水梨口に引き返す途中、流紋岩の節理を間近に見ることができました。
流紋岩の表面には、固着性地衣類がよく見られました。地衣類とは、お墓の石などに付いている苔のような生物です。
地衣類に覆われていない部分、つまり新鮮な断面は、青灰色。これが流紋岩の本来の色ということになります。割れ口では、流紋岩の特徴である白っぽい斑晶も確認できました。
三段峡には、水梨口のほかにもう一つ、「正面口」という入り口があります。水梨口から歩くルートよりも下流側に位置する入り口で、女夫淵(めおとぶち)を通って黒淵(くろぶち)までの遊歩道が整備されています。
しかしながら、私が撮影に行った2021年11月時点では、女夫淵から先が通行止めになっていて、黒淵までは行けませんでした。
こちらが女夫淵の写真です。女夫淵は、大小二つの淵が寄り添うように続いているエリア。地形が急峻な三段峡の中でも、このあたりは特に両岸が切り立っていて、その間にできた深い淵を水が静かに流れています。
通行止めのため、女夫淵から先を断念して引き返すと、遊歩道の山側に鮮やかな赤い滝が現れました。その名も「赤滝(あかだき)」です。
赤滝は、表面に付着している紅藻類のタンスイベニマダラ(Hildenbrandia jigongshanensis)のために、鮮やかな赤色に見える滝です。赤い岩石でできているというわけではありません。
この赤滝は、三段峡の本流に流れ込む支流の、末端部分に位置します。本流の侵食作用が激しいために、支流との間に段差ができてしまって、その段差が滝となりました。このような地形を懸谷(けんこく)といいます。
女夫淵から正面口へと引き返しながら渓谷を眺めると、上流側から下流側を眺めることになります。そうすると、往路では気づかなかった新たな風景が見えてきました。行きと帰りで、見える景色って変わるものなのですね。
中でも目を惹いたのが、こちらの険しい侵食地形。「竜ノ口(たつのくち)」と呼ばれています。
竜ノ口は、狭くて深い水路の吐き出し口に付けられた名前です。竜ノ口の上流側には、岩盤を深くえぐって流れる細長い水路が、竜を思わせる姿で続いています。
この辺りはゴツゴツした岩肌が特に美しかったです。次の写真は、竜ノ口のすぐ下流側に露出している岩石の様子。迫力がありますね。
撮影に訪れたのが雨上がりということもあり、「正面口」から辿った三段峡は、岩の質感がいっそうきわ立っていました。艶やかな岩と水流が織りなす山深い渓谷は、どこを切り取っても絵になる風景でした。