天山(テンシャン)山脈の空撮写真
©︎David Mark / Pixabay

中央アジアを東西に走る大山脈

中央アジアの天山(てんざん)山脈は、シンチヤンウイグル自治区(中国)からキルギス共和国にかけて連なる、東西約2500キロメートルの大山脈です。

ウイグル語で「テンリ・タグ」と呼ばれ、意味は「天の山」。

中国語名の「天山(テンシャン)」はここから名付けられたそうです。

 

天山山脈の最高峰は標高7439メートルのポベーダ山で、ちょうどキルギスと中国の国境あたりに位置しています。

ロシア語で「勝利」を意味するポベーダ山は、1943年にソ連の地形測量チームが登頂して標高を決定しました。

 

そして2番目に高いハン・テングリの標高も、6995メートルという記録的な高さ。

天山山脈は6000メートル級の山々が多数集まる険しい山岳地帯なのです。

中国シンチヤンウイグル自治区からキルギス共和国にかけて連なる天山山脈
天山山脈の位置(Googleマップ)

 

斜面には一年中溶けることのない「万年雪」が残り、白銀に輝く彫刻のような姿は、本当に美しいですね。

標高の高い谷部には長大な氷河も発達しています。

 

▼▼▼動画で写真をもっと見る▼▼▼

近くで見ると実は削れやすくもろい山

近くで見ると砂山のような天山山脈(キルギス共和国)
砂漠の砂を積み上げたような天山山脈の姿(©︎Bruno Rijsman / flickr

 

冒頭の写真のとおり、天山山脈は遠くから見ると非常に険しい山脈に見えます。

ヒマラヤ山脈の写真と似ていると思われたかもしれませんね。

 

しかし、実は近くで見ると、天山山脈は砂漠の砂を固めたような削れやすい岩石でできているのです(上の写真参照)。

その理由を解き明かすため、天山山脈の形成過程を順番に見ていきましょう。

 

まず、天山山脈はヒマラヤ山脈よりもずっと古い山脈で、今からおよそ2億5000万年前までに、すでに山地として誕生していました。

古い地質時代に造られた山ということで、「古期造山帯」と呼ばれています。

 

天山山脈の一帯で土地が隆起して(盛り上がって)山ができたのはその頃までで、その後は隆起が進むことなく、古期造山帯は長らく安定期を過ごしました。

 

でも、土地が隆起しないということは、山脈の高さが変わらないということではありません。

隆起しなけば、山脈は低くなるのです。

 

古期造山帯の天山山脈では河川による侵食が進み、どんどんと山が低くなって、やがて平原へと姿を変えました。

山地は削られ、河川の流域には削られた砂がたまり、この辺り一帯は砂に埋もれていったのです。

 

そして長い長い時間が過ぎた後、天山山脈は再び隆起を始めます。

これが1000万年から500万年くらい前のこと。

 

2億5000万年前と比べるとつい最近のことのように思えますが、1000万年くらい前というのは、インドがユーラシア大陸にぶつかることで、ヒマラヤ山脈がまさに形成されつつあった時期です。

その時期に、天山山脈も再び隆起を始めたわけです。

 

隆起の原動力はヒマラヤ山脈と同じ。

南の方から移動してきたインド(インド亜大陸と言います)がユーラシア大陸の南側にぶつかることで、強く押されたユーラシア大陸にシワができるように、ヒマラヤ山脈や天山山脈が形成されたのです。

この時期の山脈形成は世界的な規模で起こっていて、ヨーロッパのアルプス山脈、北米のロッキー山脈、南米のアンデス山脈も同じ時期に形成されました。

 

このように天山山脈は、古い山地の侵食によってできた砂の平原が、再び隆起することで形成された山脈なのです。

そのため砂漠の砂を固めたような、もろくて削れやすい岩石でできているというわけですね。

シルクロードを潤す天山山脈の雪解け水

天山山脈の南側にはシルクロードの「天山南路」があります。

 

ふもとのオアシスを結ぶ交易路で、この辺りは天山山脈からの雪解け水により、古代から農耕社会が発展してきました。

また、仏教遺跡も多く、削りやすい天山山脈の山肌を利用して数多くの石窟が掘られています。

シルクロードが栄えたのは天山山脈のおかげとも言えますね。

 

実は天山山脈の南側というのは、造山運動の結果として土地が低くなっています。

先ほど「シワができるように山脈が形成された」と言いましたが、布にできるシワを想像してもらえば分かるとおり、シワには山と谷がありますよね。

 

天山山脈がシワの「山」だとすると、その隣には「谷」ができるわけです。

南側のふもとはシワの「谷」に当たるため、土地が低い。

 

中でも交通の要衝として知られるトルファンの町は世界有数の低地で、最も低い地点の標高はマイナス154メートル。

平均海面よりも154メートル低いという意味です。

 

このような低い土地というのは夏がとても暑いのですが、トルファン市では天山山脈の雪解け水を地下水として利用し、熱い大地を潤しています。

そのため農産物も豊かで、トルファン市はブドウの産地としても知られています。

Raisins from Turpan(トルファン市の干しぶどう)
トルファン市で売られている様々な種類の干しぶどう(©︎T Chu / flickr

 

また、天山山脈を源流とする主要な河川に、シルダリヤ川とタリム川があります。

 

シルダリヤ川は天山山脈から北西に向かって流れる大河。

ウズベキスタンやカザフスタンを通って、最後は北アラル海に注いでいます。

タリム川も大きな河川で、こちらは天山山脈の南側に広がるタクラマカン砂漠の北部を、東に向かって流れています。

 

天山山脈の豊かな雪解け水は、シルクロード沿いの人々にとっても、またシルダリヤ川やタリム川流域の人々にとっても、なくてはならない貴重な水源なのです。

参考文献

場所の情報

もっと知りたい人のためのオススメ本

渡邉克晃『美しすぎる地学事典』(秀和システム,2020)

Chigaku Jiten
Amazon | 楽天ブックス