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石油の可採年数の計算方法

2020年末時点で、石油の可採年数、つまり採掘可能な残りの年数は53.5年と見積もられています(英国BP社『Statistical Review of World Energy 2021』)。

ですが、20年前、あるいは30年前にも、「石油がなくなるまであと40年」などと言われていましたね。

どうしていつまで経っても「あと何年」の数字は減らないのでしょうか。

 

それは、技術の進歩により採掘可能な石油埋蔵量が増えるからなのですが、そのことを詳しく見る前に、「あと何年」という石油の可採年数がどうやって計算されているかについて、少しだけ説明させてください。

 

石油の可採年数は、現時点で確認されている採掘可能な石油の埋蔵量(確認埋蔵量)を、その年に採掘した石油の量(年間生産量)で割った値になります。

可採年数 [年]=確認埋蔵量 [バレル]/年間生産量 [バレル]

 

わかりやすくするために、具体的に計算してみましょう。

イギリスの石油会社BP(旧ブリティッシュ・ペトロリアム)が毎年発行しているエネルギー関連のレポート『Statistical Review of World Energy』によると、2020年末時点での確認埋蔵量は世界で1兆7324億バレル、2020年における年間生産量は324億バレルです。

従って、この時点での可採年数は、

確認埋蔵量/年間生産量=1兆7324億バレル/324億バレル=53.5年

となります。

採掘可能な埋蔵量が増えれば可採年数は伸びる

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「あと何年」という可採年数はこのように計算されていますので、例えば新たな石油資源が見つかって採掘可能な埋蔵量が増えると、「あと何年」もどんどん先に伸びていくことになります。

あるいは、年間生産量と同じ分だけ毎年新たな資源が見つかれば、「あと何年」はずっと変わらないということです。

 

ここで、最近30年における確認埋蔵量、年間生産量、可採年数の変化を見てみましょう。

確認埋蔵量 [バレル]年間生産量 [バレル]可採年数 [年]
2020年1兆7324億324億53.5
2015年1兆6839億334億50.4
2010年1兆6369億304億53.8
2005年1兆3725億299億45.9
2000年1兆3009億273億47.7
1995年1兆0987億248億44.3
1990年1兆0009億237億42.2

 

こちらの表を見てもらうとわかる通り、年ごとの採掘量(年間生産量)は増えているにもかかわらず、それを上回る勢いで採掘可能な埋蔵量(確認埋蔵量)も増えており、結果として可採年数は徐々に伸びていっています。

こういうわけですから、私たちが抱く「確か30年前にも『あと40年』と言われていたような……」という感覚は、もっともなことなのです。

「あと何年」の数字は減っていないのですね。

新たな石油資源としてシェールオイルと超重質油の利用が拡大

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さて、それでは肝心の、採掘可能な石油の埋蔵量が増えている理由について、見ていきましょう。

おもな理由は、シェールオイルと超重質油という2つの新しい石油資源の実用化です。

 

シェールオイルとは、地下深くの頁岩(けつがん、シェール)から採掘される石油のことで、2010年ごろから米国などで本格的な生産が始まりました。

頁岩は泥が固まってできた岩石の一種で、本のページ(頁)のようにペラペラと薄く剥がれる性質があるものの、全体としては緻密で硬い岩石です。

 

隙間がほとんどない岩石なので、ただ井戸を掘っただけでは少しの石油しか回収できず、採算が取れません。

しかし、頁岩を水圧で破砕する技術が確立し、それによって開発コストに見合うだけの石油を回収できるようになりました。

 

なお、シェールオイルではないいわゆる普通の石油は、おもに石灰岩や砂岩の地層から採掘されています。

特にサウジアラビアを始めとする中東の産油国では、「アラブD層」と名付けられた石灰岩の地層(深さ2000〜2500m)が、巨大な石油の貯留層となっています。

 

次に「超重質油」についてですが、超重質油とは、流動性が極端に低い(つまり粘性が極端に高い)石油のことで、パイプラインによる長距離輸送ができないほか、硫黄や重金属を多く含むために環境対策が難しいなど、実用化に至るには解決すべきいくつかの課題を有しています。

しかしながら、1990年代末から徐々に技術が進歩し、ベネズエラ(南アメリカ北部)やカナダで確認されている膨大な量の超重質油が、採掘可能な石油資源とみなされるようになりました。

これにより、2010年以降ベネズエラの確認埋蔵量は世界最大となり、長らくダントツの1位だったサウジアラビアを上回っています。

 

ベネズエラの超重質油を実用化させた技術に、「ナフサと混ぜて流動性を高める」という方法があります。

ナフサというのは石油製品の一つで、ガソリンに似た透明な液体。

サラサラなので、超重質油に混ぜれば流動性が高くなるのです。

そのままでは輸送も精製も困難な超重質油ですが、油田の近くに建設した処理プラントでナフサと混ぜることにより、まずは流動性の高い合成油に変え、そこから製油所に運んで精製するという二段構えの方法で、実用化に漕ぎ着けることができました。

 

このように、シェールオイルや超重質油の利用が広がっているために、採掘可能な石油の埋蔵量は年々増加傾向にあります。

とは言え、化石燃料である石油に限りがあることは事実ですし、燃焼による二酸化炭素などの排出も気になるところです。

「あと何年」という数字がなかなか減らないことに感謝しつつも、引き続き多様なエネルギー生産を模索していく必要がありますね。

参考文献

資源エネルギー庁『一次エネルギーの動向

関西電力『石油や石炭はあとどれくらい採れるのでしょうか?

BP『Statistical Review of World Energy 2022

BP『Statistical Review of World Energy』(データセット)

日本経済新聞『シェールオイルとは 米原油生産の7割に

週刊エコノミストOnline『戻らない米国のシェール生産 原油価格は100ドル超え視野

管野昭久(新日本石油開発)『超重質油とは?

JOGMEC『重質油回収・改質技術

コトバンク『超重質油』『ガワール油田』『油田

日揮ホールディングス『超重質油処理プラント

石油化学工業協会『ナフサ分解工場

齊藤隆『中東の自然と石油

もっと知りたい人のためのオススメ本

渡邉克晃『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』(ベレ出版,2022)

書影『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』渡邉克晃(2022年11月18日刊行)
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※この記事の内容を含め、身近な地質学の話題がたくさん紹介されています。

石油の可採年数はあと何年?(渡邉克晃『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』より)