触ると簡単に手が切れる
縄文時代より前の旧石器時代から、黒曜岩(こくようがん)は石器の材料として使われてきました。黒曜岩のかけらは、割れたガラスのように端が鋭く尖っていて、触ると簡単に手が切れてしまいます。ちゃんとした矢尻やナイフの形になっていなくても、その切れ味は抜群。
黒曜岩と簡単な道具(シカの角でできたハンマーなど)さえあれば、誰でも石器作りを体験できますが、もしやるなら厚い革の手袋を必ずつけましょう。素手でやるのは危険すぎますし、軍手のような薄い手袋でも、やはり怪我をしてしまいます。
黒曜岩のかけらは、言ってみればカミソリのような鋭い刃物です。
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黒曜岩は天然のガラス
黒曜岩のかけらがこんなにも危険なのは、黒曜岩が天然のガラスだからです。私たちがよく知っているガラスと同じような物質が、自然界でもできるわけですね。
ところで、「ガラス」とは一体どんな物質のことでしょうか。
コップや窓に使われている普通のガラスは、おもに「二酸化ケイ素」という成分でできています。元素の種類で言うと、ケイ素と酸素。そして、黒曜岩のおもな成分も、同じく二酸化ケイ素です。
また、普通のガラスも黒曜岩も、どちらも結晶ではありません。結晶というのは、原子が規則正しく繰り返して並んだ物質のこと。水晶やダイヤモンドなど、ほとんどの鉱物は結晶です。「結晶ではない」とは、原子が規則正しく繰り返して並んでいないことを意味し、その様子を「非晶質」と呼んでいます。
ここまでをまとめると、ガラスとは、「おもに二酸化ケイ素でできた非晶質の物質」ということになりますね。一般のガラスも、黒曜岩も、どちらもこれに当てはまっています。
冷める途中で水飴状になる
ただし、二酸化ケイ素以外の成分でできたガラスもあり、特徴としてはまだ十分ではありません。
ガラスの特徴としてもっとも重要なのは、実は、「液体から固体になるときに、水飴のような状態になること」です。ガラス工房の職人さんが、溶けたガラスを吹き竿(ふきざお)の先につけて、膨らませたり形を整えたりするのを見たことがありませんか。あの溶けたガラス、なんだか水飴のようで、けっこう自由に形を変えられますよね。
液体の温度が下がって固体になる時、普通はあのような「水飴」にはなりません。サラサラあるいはドロドロの液体が、ある温度以下では、いきなりカチッとした固体になるのです。この温度を「融点」といいます。
一方、ガラスの場合、融点まで温度が下がってもすぐには固体にならず、液体のまま温度が下がり続け、水飴のように粘り気が出てきます。そして、「水飴」の粘り気が最大限に大きくなることで、滑らかに固体へと変化するのです。
鉱物の解説:黒曜岩(こくようがん)
黒曜岩は、ほかの鉱物と同じく「自然界にある固体の物質で、地質作用によって作られたもの」ですが、一定の成分や原子の並び方を持たず、国際鉱物学連合によって認められた「鉱物種」ではありません。
鉱物としてよりも、どちらかというと岩石の一種として紹介されることが多く、岩石の分類では、火山岩に区分されています。
おもな成分は二酸化ケイ素で、同じく火山岩の一種である流紋岩と近い成分。流紋岩も、地表に流れ出たマグマが短時間のうちに冷えて固まった岩石ですが、黒曜岩はそれよりもさらにすばやく、水中などで急速に冷やされてできた岩石です。
ガラスになりやすい成分が急速に冷やされることで、黒曜岩という天然のガラスが生まれます。
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