今回紹介する実験は、光合成色素の吸収スペクトルを簡易分光器で観察する実験です。

ツツジの葉をシリカゲルと一緒にすりつぶして色素抽出液を作り、その中を透過させた太陽光のスペクトルを簡易分光器で観察したところ、赤色、青色、藍色、紫色の吸収が観察されました。

このことから、ツツジの葉が光合成に利用している光の波長域は、赤色よりも長い領域および青色〜紫色の領域であるとわかります。

また、今回ツツジの葉の色素抽出液から得られた吸収スペクトルの傾向は、一般的な光合成の作用スペクトルと概ね一致していることが確認できました。

    実験準備

    • 緑色の植物の葉(今回はツツジの葉を使用)
    • ジエチルエーテル 約5mL
    • 簡易分光器(文末の参考文献に掲載されている型紙を使って自作した)※下の図1参照。
    • 乳ばち(すり鉢でも代用可)
    • 乳棒(すり棒でも代用可)
    • 試験管 2本
    • 試験管用のゴム栓 2個
    • 試験管立て
    • シリカゲルの粉末 少々
    • 薬さじ
    手作り簡易分光器
    図1.自作した簡易分光器.

    実験方法

    手順1

    新鮮なツツジの葉を、シリカゲル粉末が入った乳ばち等ですりつぶします。 

    新鮮なツツジの葉をシリカゲルの入ったすり鉢ですりつぶしたところ
    図2.新鮮なツツジの葉をシリカゲルの入ったすり鉢ですりつぶしたところ.
    手順2

    薬さじ1杯程度のすりつぶした葉を試験管に入れ、ジエチルエーテルを約5mL加えます(換気に注意)。試験管にゴム栓をして、シリカゲル粉末が沈殿するのを待ちます。

    すりつぶしたツツジの葉とシリカゲルを試験管に入れたところ
    図3.すりつぶしたツツジの葉とシリカゲルを試験管に入れたところ.
    ジエチルエーテルを加えてからシリカゲル粉末が沈殿するまで放置したところ
    図4.ジエチルエーテルを加えてからシリカゲル粉末が沈殿するまで放置したところ.
    手順3

    予備実験として、簡易分光器(図1)を用いて太陽光のスペクトルを観察します(白色蛍光灯でも代用可)。赤、橙(だいだい)、黄、緑、青、藍(あい)、紫の7色が簡易分光器で見分けられることを確認しましょう。

    手順4

    手順2の上澄み部分(色素抽出液)を別の試験管に移してゴム栓をし、この色素抽出液を透過させた時の太陽光のスペクトルを観察します(白色蛍光灯でも代用可)。

    実験結果

    ツツジの葉をすりつぶして作った色素抽出液に太陽光を透過させ、その透過光のスペクトルを簡易分光器で観察したところ、以下の表のようになりました。

    比較のために予備実験(手順3)で観察した太陽光のスペクトルも記載しています。

    (○:見えた ×:見えなかった △:見えたけど明らかに弱くなった)

    表1.光合成色素抽出液を通したときの太陽光スペクトルの色.
    赤色
    橙色
    黄色
    緑色
    青色
    藍色
    紫色
    太陽光のスペクトル
    色素抽出液を通した太陽光のスペクトル
    ×
    ×
    ×

     

    表1から分かるように、色素抽出液を透過させることによって、赤色の波長領域の一部および青色から紫色の波長領域の光が吸収されて見えなくなりました。

    考察

    ツツジの葉をすりつぶして作った色素抽出液に太陽光を透過させたところ、表1の通り、通常の太陽光のスペクトルに比べて赤色が弱く、青色、藍色、紫色が見えなくなりました。

    このことから、ツツジの葉に含まれる光合成色素には、赤色、青色、藍色、紫色の光を吸収する特性があると考えられます。

    ツツジの葉が光合成に利用する光エネルギーの波長領域

    光合成色素は光合成に必要な光エネルギーを捕捉する生体色素であるので、光合成色素が吸収する波長領域の光が、すなわち光合成に利用されている光であると考えることができます。

    今回のケースであれば、ツツジの葉は赤色および青〜紫色の光を光合成に利用していて、橙(だいだい)〜緑色の光は光合成に利用していないと推定できるわけです。

    そして、このような傾向は、一般的な光合成の作用スペクトルと概ね一致しています。

    吸収スペクトルと作用スペクトルの違いに注意

    ただし、ここで注意が必要です。

    通常、光合成色素の吸光度をグラフにした「吸収スペクトル」と、緑葉に太陽光を当てた時の光合成効率をグラフにした「作用スペクトル」を比較した場合、傾向は同じでも、実は決定的な違いがあるのです。

     

    どういうことかと言いますと、まず今回の実験結果で得た結果は、具体的な数値こそありませんが「吸収スペクトル」に相当するデータですね。

    目視で吸光度を観察したわけですから。

    でも、仮にツツジの葉に太陽光を当てて光合成効率を測定し、どの波長領域の光がよく利用されているかを調べれば、吸収されていないはずの橙(だいだい)〜緑色の波長領域の光も多少は利用されているという結果になるのです(こちらが作用スペクトル)。

     

    つまり、光合成色素の吸収スペクトルで吸収が見られない波長領域の光であっても、光合成に使われていないとは言えないということ。

    実際には低い効率で吸収されていて、葉の中を何度も反射するうちにしっかりと光合成に利用されている、という仕組みになっているのです。

    この点だけは注意しておく必要があります。

    まとめ

    今回の実験結果の要点をまとめます。

    • ツツジの葉の色素抽出液に太陽光を透過させると、赤色の一部と青色・藍色・紫色の光が吸収された。
    • この傾向は一般的な光合成の作用スペクトルと一致しており、ツツジの葉はこれらの波長領域の光を高い効率で光合成に利用していると言える。
    • ただし、吸収が見られなかった波長領域の光(橙色・黄色・緑色)についても、光合成に利用されていないとは言えないため注意が必要である。

    参考文献

    今回の実験は以下の教科書を参考にさせていただきました。

    • 東京書籍『改訂 科学と人間生活』(東書 科人 306)19ページ「実験A 光合成で用いられる光の色を確かめる実験」