地学博士のサイエンス教室 グラニット

地球科学コミュニケーター・渡邉克晃のブログです。

サンフランシスコに壊滅的被害。アメリカ西海岸のサンアンドレアス断層

©︎Doc Searls / flickr

カリフォルニア州の沿岸に全長1300kmの大断層

地震の多発地帯として知られる、アメリカ合衆国西海岸のカリフォルニア州。

太平洋に面したカリフォルニア州の沿岸部には、全長1300キロメートルに渡る大断層、サンアンドレアス断層があります。

サンアンドレアス断層の場所
サンアンドレアス断層の位置(Kate Barton, David Howell, and Joe Vigil (2006) を改変)

 

図中に赤線で示した部分がサンアンドレアス断層で、カリフォルニア州の南部から西部まで、延々と続いている様子がよくわかります。

そしてその断層上に、ロサンゼルスやサンフランシスコといった大都市もありますね。

サンアンドレアス断層は「横ずれ断層」と呼ばれる水平方向にずれる断層で、図中の赤い矢印は、ずれの方向を示したものです。

 

さて、冒頭の写真を見てください。

この写真は、ロサンゼルスの北約160キロメートルのところにあるカリゾ平原の上空から見た断層の姿です。

写真中央に動物の背骨のように伸びる丘陵部があり、その中心にくっきりとした谷が形成されていますね。

 

この谷の部分がサンアンドレアス断層。

カリゾ平原は樹木の少ない半乾燥地帯であるため、このような断層の形状をよく観察することができます。

丘陵部は、断層の両側が互いに押し合うことでできた「プレッシャーリッジ」と呼ばれる地質構造で、このような丘陵部が3キロメートルほど続いています。

 

横ずれ断層というのは、基本的には水平方向にずれるので「押し合う」ということはないのですが、そうは言っても局所的には圧縮の力がかかります。

それで、断層の一部ではこのような盛り上がった地形が形成されるのです。

 

▼▼▼動画もあります▼▼▼

すれ違うプレート境界が横ずれ断層を作る

太平洋プレートと北アメリカプレート(©︎アメリカ地質調査所(USGS) / ウィキペディア

 

サンアンドレアス断層は、太平洋プレートと北アメリカプレートという、2枚のプレートの境界に当たります。

カリフォルニア州の西側にあるのが太平洋プレートで、こちらは太平洋を広く覆う海洋プレート。

また東側の北アメリカプレートは、北アメリカ大陸やグリーンランド、さらにはシベリア地方の一部まで含む広大な大陸プレートで、東日本もこのプレートの一部に含まれます。

 

サンアンドレアス断層ではこれら2枚のプレートが接しているわけですが、太平洋プレートが北西に移動しているため、この一帯は水平方向の「横ずれ」になるのです。

そして、カリフォルニア州で北アメリカプレート側に立ち、西に広がる太平洋プレートを眺めると、太平洋プレートは向かって右側にずれていることがわかります。

太平洋プレートが北西に移動しているのですから、そうなりますよね。

 

逆に、北西の方角に移動する太平洋プレートに乗って北アメリカプレートを眺めたとしても、やはり北アメリカプレートは向かって右側にずれていることになる。

つまり、断層のどちら側に立っても、相手のプレートが右にずれていることに変わりはないのです。

 

このように、断層の片側に立つ人が断層の向こう側を見たときに、向こう側が右にずれる横ずれ断層を「右横ずれ断層」と言います。

サンアンドレアス断層は右横ずれ断層なのです。

 

このことを踏まえた上で、もう一度冒頭の写真を見てください。

断層を横切るように、何本かの川が流れているのが見えると思います。

 

例えば写真の右半分(断層の右側)に目をやると、手前の方に比較的大きな川があります。

この川を、写真の右側から断層の方へと辿って行くと、断層のところで大きく折れ曲がっていますね。

写真上側にカクッと折れた後、断層の反対側ではまた左の方に向かって伸びています。

 

この川の折れ曲がりが、実は右横ずれ断層の証拠なのです。

サンアンドレアス断層を横切るように川ができた後、断層が横に動いたために川の流路が曲げられました。

そして、断層の片側から向こう側の川を見ると、川の流路はちゃんと右側にずれています。

 

なお、断層がずれる速度には諸説ありますが、例えば最近3700年ほどの間に約128メートルのずれが生じたと見積もられています。

サンアンドレアス断層のこのような動きの結果、断層の両側に位置するロサンゼルスとサンフランシスコは、今も年間数ミリメートルずつ近づいているということです。

サンフランシスコを壊滅させた1906年の大地震

地震により壊滅したサンフランシスコ市街(©︎George R. Lawrence, 1906 / ウィキペディア

 

サンアンドレアス断層はこれまでに何度も大規模な地震を引き起こし、度々カリフォルニア州に深刻な被害を与えてきましたが、中でもとりわけ被害が大きかったのが1906年のサンフランシスコ地震です。

地震の規模を示すマグニチュードは7.8。

当時新興都市だったサンフランシスコの市街地を壊滅させ、地震とそれに続く火災により3000人以上の死者を出すという歴史的な災害となりました。

 

サンアンドレアス断層は、大きく「北部」「中部」「南部」に区分されますが、サンフランシスコ地震は北部で発生した大規模な地震です。

そのほかに北部で起きた大地震としては、1989年のロマプリータ地震もありました。

また、中部では、1857年に推定マグニチュード7.9のフォートテフォン地震が起きています。

 

このような状況の中、地震研究者の中で長らく危惧されているのが、南部での大地震。

北部や中部と違い、サンアンドレアス断層の南部では少なくとも300年間に渡って大規模な地震が起きておらず、その分、地震のエネルギーが蓄積されていると見られるからです。

日本と同じく、アメリカでも将来の大地震が警戒されているのです。

参考文献

場所の情報

もっと知りたい人のためのオススメ本

渡邉克晃『美しすぎる地学事典』(秀和システム,2020)

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