地学博士のサイエンス教室 グラニット

地球科学コミュニケーター・渡邉克晃のブログです。

海中のカルデラ地形が作る美しい景観。エーゲ海南部・サントリーニ島

サントリーニ島イア
©︎Alma Ayon / flickr

カルデラ地形の縁に建てられた夕日の街

崖の上に密集して立ち並ぶ、白い壁の家々。

傾いた午後の光に照らされて、何とも美しい景観を作っていますね。

 

ここはエーゲ海南部、キクラデス諸島最南端に位置するギリシャ領の島、サントリーニ島(別名・ティーラ島)。

崖の上の街は「夕日の街」として知られるイアです。

イアはサントリーニ島中央部にあるフィラの街と共に、世界有数の美しい景観を持つ街として、多くの芸術家が写真や絵画作品の題材にしてきました。

 

なぜサントリーニ島の街は、これほどまでに人を惹きつける美しさを持っているのでしょうか。

 

サントリーニ島の独特の景観は、カルデラ地形(火山活動によってできる陥没地形)によるものです。

まずはこちらの写真で、島の全体像を見てみましょう。

サントリーニ島のカルデラを南西の上空から撮影
上空から見たサントリーニ島のカルデラ地形(©︎Steve Jurvetson / flickr

 

この写真は島の南西側から北東を望む航空写真で、斜め上空から撮影されたものです。

真ん中の小さい島を取り囲むように、三日月形の大きな島がありますね。

これがサントリーニ島。

サントリーニ島は火山活動によってできた島で、サントリーニ・カルデラと呼ばれる陥没地形の縁に当たる部分なのです。

 

なぜこのような地形ができたのかと言いますと、火山の内部にたまったマグマが大量に噴出されることで火山の内部が空洞になり、その結果、陥没して中心部が凹んでしまったためです。

サントリーニ・カルデラの場合は陥没した部分が海面下に沈んでいるため、全体を見ると、上の写真のような輪っかの形になっているわけですね。

 

▼▼▼動画もあります▼▼▼

かつては一つの大きな島だった

サントリーニ・カルデラの他の島についても見てみましょう。

サントリーニ・カルデラを構成する5つの島
©︎Steve Jurvetson / flickr, modified

 

カルデラ地形の中心には小さな2つの島があり、やや大きい方がネア・カメニ島、もう一つがパレア・カメニ島です。

そしてカルデラ地形の輪っかに当たる部分にあるのが、面積の大きい順にサントリーニ島、ティラシア島、アスプロニシ島の3つ。

 

島の標高は200から300メートルほどで、カルデラ地形の南北が12キロメートル、東西が7キロメートルほどの大きさになります。

そして、輪っかの内側(陥没地形の内側)に当たる部分が崖になっていて、その上に白壁の家々が並んでいるわけですね。

 

さて、今でこそサントリーニ・カルデラは5つの島からなっていますが、元々は一つの火山でした。

紀元前1628年ごろ、ミノア噴火と呼ばれる海底火山の大爆発で、サントリーニ・カルデラの辺りに火山が顔を出しました。

しかし、大量のマグマを噴出して中が空洞になった火山は、上述の通り中心部分が陥没し、カルデラ地形となったのです。

 

その後、紀元前197年の噴火でパレア・カメニ島が、1707年の噴火でネア・カメニ島が、それぞれカルデラ地形の真ん中に作られました。

これらの島は、粘り気の強いタイプの溶岩が盛り上がってできた「溶岩ドーム」。

全体的に黒っぽい色をしています。

 

溶岩の特徴について少し補足しますと、ネア・カメニ島やパレア・カメニ島を作っているサントリーニ・カルデラの溶岩は、両方とも二酸化ケイ素の割合が比較的高いデイサイト質の溶岩です(重量比で約65パーセント)。

だから粘り気が強い。

 

デイサイト質の溶岩というのは、二酸化ケイ素の割合が低い玄武岩質の溶岩に比べ、一般的には白っぽい色をしています。

しかし、二酸化ケイ素が多いデイサイト質の溶岩であっても、結晶化が進んでいないガラス質のものは黒っぽく、特に海底に噴出するデイサイト質の溶岩は、しばしば黒いことが知られています。

 

と言うわけで、溶岩の色から二酸化ケイ素の割合を判断することは、意外と難しいのですね。

プレートの衝突でできたエーゲ海南部の火山地帯

サントリーニ島の位置
画像:Google Earth に加筆

 

ギリシャ本土から南東に200キロメートルほど離れた場所に浮かぶ、サントリーニ島。

サントリーニ・カルデラは、エーゲ海南部の火山地帯で最も火山活動が活発な地点です。

 

地下では現在も活発な火山活動が継続していて、カルデラ地形の真ん中にあるネア・カメニ島は、何度も噴火を繰り返している活火山。

最近の噴火は1950年に起こり、それ以降は目立った噴火はありませんが、噴気孔からは火山ガスの放出が続いています。

 

エーゲ海南部の火山地帯は、アフリカプレート(アフリカ大陸が属する大きな岩盤)がユーラシアプレート(同じくユーラシア大陸が属する大きな岩盤)の下に潜り込むことで生まれました。

サントリーニ島と3つのプレート(ユーラシアプレート、アフリカプレート、アラビアプレート)
画像:Google Earth に加筆

 

もう少し細かく見ると、エーゲ海の辺りはユーラシアプレートとは別の独立したプレート、「エーゲ海プレート」と言われますが、いずれにしても、これらのプレートの下にアフリカプレートが潜り込んでいるわけです。

 

サントリーニ島の南には同じくギリシャ領のクレタ島があり、クレタ島の南の海域が、おおよそのプレート境界となっています。

この沈み込みの影響で、サントリーニ島は現在でも北東向きに、1年あたり5センチメートルほどの速度で動いています。

参考文献

場所の情報

もっと知りたい人のためのオススメ本

渡邉克晃『美しすぎる地学事典』(秀和システム,2020)

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