私たちを地球表面に引きつけ、支えてくれている重力。
この重力がもしなくなったら、私たちの住む世界はどうなってしまうのでしょうか。
そのことについて、今回は考えてみたいと思います。
① 空中を泳げるようになる
もしもある日突然、重力がなくなったら。
まず1番目は、「空中を泳げるようになる」です。
重力がなくなって「ふわっ」と体が浮かぶようになるわけですから、まるで水の中を泳ぐように、空気の中を泳げるようになります。
いわゆる「空中遊泳」ができるわけですね。
宇宙飛行士みたいに。
もちろん水と違って空気はもっと軽いものですので、一生懸命に手を動かしてクロールや平泳ぎをしてみても、進むのは結構大変。
のんびりと風の流れに身を任せてみるのもいいかもしれませんが、それでは行きたいところに行けませんので、何とか進む方法が必要です。
例えばダイバーのようなヒレ足か、鳥の羽のような大きなうちわか。
あるいは潜水艦のように、スクリューの代わりになる扇風機みたいなものがあればいいかもしれません。
空気を送り出して自分の体に推進力をつけることができるので、うまく前に進めるかもしれませんね。
そして、重力がなくなれば自分の体が下に引きつけられなくなるわけですから、体重計に乗っても0キログラム。
と言うか、ふわふわしていて体重計に乗ることもできないでしょう。
あるいは、ビルから飛び降りても大丈夫。
下に落ちることはありません。
こういう世界になるなら、ちょっと楽しそうですよね。
でも重力がなくなってしまうと、やはり困ることがたくさん起こります。
どんな困ったことになるのか、続けて見て行きましょう。
② 鼻血が出やすくなる
もしもある日突然、重力がなくなったら。
2番目は、「鼻血が出やすくなる」です。
人間の血液というのは、重力によって下の方に引っ張られています。
ですので、もし重力がなくなると、下に引っ張られていた血液が上の方に回りやすくなるわけですね。
そうすると体の上の方、つまり頭の方に血液が集まりやすくなって、鼻血が出やすくなってしまいます。
「頭の方に血が集まる」と言うのは、逆立ちをしたり、頭を下にして鉄棒にぶら下がったりした時の、あの感じです。
「頭に血がのぼる」と言いますよね。
通常、重力がある状態では、私たちの体全体に血液を送り出すために、心臓が頑張っています。
そのままでしたら体の下の方にしか血液は行きませんから、心臓の強いポンプの働きで、体の上の方にまで血液を送り出しているわけです。
言わば、心臓は重力に逆らって全身に血液を送っているのですね。
ですので、突然重力がなくなれば心臓は楽々血液を送れるようになり、むしろ「送り過ぎ」になってしまう。
重力のない状態では、私たちの心臓のポンプは強過ぎるのです。
その結果、頭の方にも血液が集まりやすくなり、鼻血が出やすくなると言うわけですね。
重力がなくなった後も人類が生き延びていたなら、心臓は徐々に小さくなって、ポンプの力を弱くすることによって重力のない状態に適応していくようになるでしょう。
③ 背骨が痛くなる
もしもある日突然、重力がなくなったら。
3番目は、「背骨が痛くなる」です。
こちらも体に起こる健康上のトラブル。
人間の背骨というのは、起きている間は重力によって上下方向に押し縮められた状態になっています。
ブロック状の骨が首から腰まで24個積み重なっているのですが、ゆるやかなS字カーブを描きつつ、ちょっと湾曲している。
そしてブロック状の骨どうしは、間に軟骨を挟んでつながっています。
この背骨のS字カーブ、実は人間の体重をうまく支えるために湾曲していて、首や腰などに負担がかかり過ぎないように、重力を分散させる構造になっているのです。
言い換えれば、背骨というのはそれだけ重力によって上下に押し縮められながら、頑張って体を支えてくれているということ。
さて、この状態で重力がなくなるということは、突然背骨にかかる上下方向の負担がなくなるということです。
押し縮められていた背骨が、解放される。
そうすると、これまでブロック状の骨と骨の間、つまり軟骨部分にかかっていた力もなくなってしまいます。
軟骨には水分が多く含まれていて、起きている間に上下に押し縮められることで適度に水分が抜け、横になって寝ている間に再び水分が補充されるという性質があるのですが、重力がなくなれば水分は補充される一方。
軟骨から水分が抜けなくなるということで、結果的に軟骨は膨らみ過ぎてしまうのです。
これによって背骨と背骨の間が開き、膨らんだ軟骨が神経を刺激するなどして、背骨が痛くなるというわけです。
④ 目の焦点が合わなくなる
もしもある日突然、重力がなくなったら。
4番目は、「目の焦点が合わなくなる」です。
こちらも健康上のトラブルの話。
目の眼球というのは、ゼリー状の硝子体(しょうしたい)というものでできています。
ガラスのようにカチカチではなく、弾力がある物体。
硝子体はレンズの働きをしているわけですが、ゼリー状ということはその形は一定ではなく、外からの力によって変わるわけですね。
そして、目の焦点がピタッと合うには硝子体の形は絶妙なバランスを保っていなければならず、少し形が変わるだけでも視力が落ちてしまうのです。
さて、重力がなくなるとどうなるかと言いますと、実は宇宙飛行士が実際に体験したこととして、硝子体の後ろの部分が平らに変形してしまうのです。
この変形による視力の低下は、国際宇宙ステーションに長く滞在した宇宙飛行士の約3分の2に見られるとても多い症状。
原因は、脳の周りをおおっている液体(脳脊髄液(のうせきずいえき)と言います)でした。
脳脊髄液は脳を守るクッションの役割をしているのですが、重力がなくなることでそのバランスを崩し、眼球の後ろ側に多く集まって硝子体を押してしまうのです。
その結果、押された硝子体は変形して、後ろ側が平らになる。
そして目の焦点が合わなって、視力が悪くなるというわけです。
⑤ ロープで体をつながないと飛んで行っちゃう
もしもある日突然、重力がなくなったら。
5番目は、「ロープで体をつながないと飛んでいってしまう」です。
重力がなくなるわけですから、自分の体をロープで地球につなぎ留めておかなければ、ふとしたことで地球から離れていってしまいます。
飛んで行ってしまわないための、命綱が必要になるわけですね。
もちろん飛び跳ね厳禁です。
重力のない状態で「ポンっ」と飛び上がってしまったら、もうそのまま戻って来れません。
飛び上がったまま地面に降りて来れなくて、どんどん離れていってしまいます。
そのまま宇宙まで出て行ってしまうでしょう。
いえ、飛び跳ねどころか、実は普通に歩いたり走ったりするだけでも、その危険は十分にあります。
歩くにしろ走るにしろ、私たちは地面をある程度蹴っているわけですので、作用・反作用の力で地面から離れようとするわけですね。
これ、かなり怖いことです。
重力がなくなった世界では、私たちは歩くことさえうまくできなくなるのです。
ロープで体をつなぎ留めておき、地面につかまりながら移動するしかない。
何だかロッククライマーみたいですね。
重力がなくなると聞いて、もしかしたら月に行った宇宙飛行士がふわふわと歩いている様子を思い浮かべたかもしれません。
でも、月にはちゃんと重力があります。
地球の重力よりはずいぶんと小さいですが、それでも約6分の1の大きさの重力があるので、歩いても飛び跳ねても、また地面に戻ってこれるのです。
ところで、いつも命綱のロープを付けて、ロッククライマーのように地面にしがみついて移動しなければならないなんて、ちょっと大変ですよね。
理想的なのは、アニメ『進撃の巨人』に出てくる立体機動装置です。
腰の辺りから2本のワイヤーが飛び出し、建物とか木とかに刺さって先端が固定され、そのワイヤーを巻き戻すことで体を移動させる装置。
こういうのがあれば、重力のなくなった世界でもわりとうまく移動できそうですね。
それと、ロープで地面につないでおかなければならないのは、人間の体だけではありません。
家具も、パソコンも、ノートも、鉛筆も、ありとあらゆるものが地面から離れてふわふわと移動していきます。
家や車も、地面にしっかりと固定しておかなくてはならないでしょう。
あ、車は走れないので意味がなくなりますね。
⑥ 空気も海もなくなる
もしもある日突然、重力がなくなったら。
6番目は、「空気も海もなくなる」です。
空気や海というのも、重力によって地球に引き付けられているわけです。
ですので、重力がなくなれば地球の表面に留まり続けることができなくなります。
まず空気から考えてみましょう。
空気って、すごく軽くて重さがないように思えますけど、空気にもちゃんと重さがあります。
「気圧」という言葉はよく耳にしますよね。
気圧とは、空気の重みによって生まれる力のことなのです。
空気に重さがあるということは、言い換えれば、空気にも重力が働いているということです。
地球の重力によって空気が引っ張られているので、空気に「重さ」が生まれるわけですね。
ということは、重力がなくなると空気を下向きに引っ張る力がなくなり、空気は地面の近くに留まっていられなくなる。
分散して、薄く広がりながらどこかに飛んでいってしまうわけです。
また、海の水についてはどうでしょうか。
海の水も、ちゃんと海底面に沿って薄く広がっていられるのは、重力のおかげです。
重力によって地球の中心向きに引っ張られることで、海底の地形に合わせてできるだけ低い場所に集まり、海面も平らになるのです。
では、重力がなくなったら海の水はどうなってしまうかと言うと、それを考えるときの良いヒントは、宇宙空間で水をこぼす実験です。
国際宇宙ステーションの中で行われる実験の一コマとして、宇宙飛行士と一緒に丸い水の玉がぷかぷかと浮かんでいる様子が撮影されていますね。
あのように、重力がほとんどない宇宙空間では、容器に入っていない水はシャボン玉のように丸くなるのです。
これは、なるべく表面の面積が小さくなるように集まろうとする水の性質によるもので、海の水も重力がなくなれば同じようにふるまうと考えられます。
つまり、海の水はできるだけ一箇所に集まろうとして、太平洋の真ん中とかに巨大な盛り上がりを作るようになる。
そうすると、日本の近くの海など沿岸に近い場所では、海水が引いていくと言う現象が起こるわけです。
また、水にはもう一つ特徴的な性質があって、それは、濡れやすいものにはどんどん浸み込んでいくと言う性質です。
コップの水に紙を浸せば、水が浸み込みますよね。
海の水が重力で下に引っ張られている時は、海の水は陸地に這い上がってくることはできませんでしたが、重力がなくなれば、浸み込む力によって陸地に這い上がってくると考えられます。
つまり、海の水は一箇所に集まろうとする一方で、陸地は海水でひたひたになる。
こんなことが起こると考えられるのです。
⑦ 地球がバラバラになる
もしもある日突然、重力がなくなったら。
7番目は、「地球がバラバラになる」です。
ここまででもすでに人類はかなりの危機的状況ですが、最終的には、地球がバラバラになってしまうと考えられます。
地球はおもに岩石と鉄でできていますが、その内部はとても熱くなっています。
例えば地球の中心にあるコアと呼ばれる部分は、およそ3800℃〜5500℃という想像を絶するほどの熱さ。
地球は小惑星がいくつも衝突してできたと考えられており、そのときの衝撃で発生した熱がまだ冷めていなくて、地球の内部をこんなにも熱い状態にしているのです。
また、ウランなどの放射性物質が地球内部で熱を発していることも、高温の原因です。
さて、物体は温度が上がると膨張しようとします。
体積が大きくなる。
固体のままでも膨らんで大きくなりますが、やがては固体から液体になり、さらに気体になって、どんどん広がっていくわけです。
地球の内部も同じで、これだけの高温ですから本来は膨張してどんどん広がってしまうはずですね。
でもそうなっていないのは、重力があるからなのです。
膨張しようとする熱い地球を、重力が無理やり「ギュッ」と押し縮めているイメージ。
だから、地球の内部は高温であると同時に、「高圧」でもあるのです。
とても圧力が高い。
膨張しようとするのを重力で無理やり押さえているわけですから、重力がなくなったら地球はもう膨張し放題です。
突然ドカンと爆発することはないにしても、少なくとも大地震や火山噴火など、いろんなことが一気に起こるでしょう。
地球がバラバラになるまでに残された時間は、そう長くないはずです。
ここまでのまとめ
「もしもある日突然、重力がなくなったら」というテーマでここまで考えてきましたが、最終的には地球が滅んでしまうということで、かなりショッキングな話でしたね。
ここまでの話を簡単にまとめますと、次の通りです。
- 空中を泳げるようになる
- 鼻血が出やすくなる
- 背骨が痛くなる
- 目の焦点が合わなくなる
- ロープで体をつながないと飛んで行っちゃう
- 空気も海もなくなる
- 地球がバラバラになる
その結果、こんな暮らしになるかも
以上のように、重力がなくなったら地球は大変なことになってしまうわけですが、それでも人類が生き延びたとしたらどんな暮らしになるのか。
最後にその辺りのことを予想してみたいと思います。
地球から脱出
まずは地球からの脱出。
さすがにもう地球には住めないということで、地球から脱出しないといけなくなります。
生き残った人類は、地球以外のどこかの星に向けて旅立つことになるでしょう。
どこに行くにしろ、地球の重力がなくなっていますので、宇宙空間へ飛び出すのは比較的簡単だと思われます。
パックに詰めて地球の資源を持っていく
地球を脱出するとき、できる限り多くの資源を地球から持っていかなくてはなりません。
そうしないと、たとえ他の星にたどり着いても生きていくのは無理でしょう。
空気、水、土、植物、動物、ありとあらゆるものが必要です。
空気や水がなければ人は生きていけませんし、植物や動物がいなければ毎日の食べ物がなくなってしまいます。
他の星に着いてから文明を発展させるには、工業製品も持っていかなくてはならないでしょう。
宇宙を移動するための宇宙船も、もちろん必要ですね。
もしも地球を捨てて宇宙へ旅立たなければならないとしたら、あなたは何を持っていきますか。
そう考えると、地球上のあらゆるものがとても貴重で得がたいものであることが、良くわかりますね。
ですので、重力がなくなって地球がどんどん崩壊していく真っ只中ですけど、なるべく多くの資源を地球から持っていけるようにパック詰めしなければなりません。
空気のパック詰めは特に大変です。
大量に必要なのに、専用の容器がないと持ち運ぶことができません。
ボンベに詰めるしかないですが、数は限られていますので十分な量を持ち出すにはほど遠いでしょう。
火星に移住する
そして、移住先の一番の候補は、やはり火星です。
火星は直径が地球の半分ほどの小ぶりの惑星ですが、地球からの距離も近く、火星移住計画が本気で研究されているほどです。
平均気温がマイナス55℃ですので、住んで住めなくはない環境。
ですので、重力がなくなったあと人類は火星を目指すと考えられますが、火星に着陸するときの方法がちょっと問題です。
当然ながら、地球だけでなく火星にも重力があるわけですね。
地球の重力だけがなくなって、火星には重力があるとすると、火星に近づいた人類は火星に向かってどんどん落ちていくことになります。
せっかく地球からいろんなものを持って引越ししてきたのに、火星に落下したらみんな死んでしまうし壊れてしまう。
ですので、着陸するためのパラシュートやエアバッグ、あるいは逆向きにロケット噴射できる装置などを準備していかなくてはなりません。
土とか石、飲み水以外の水、植物の種などは、もしかしたら自然落下させるだけで大丈夫かもしれませんね。
できればパラシュートが欲しいところですが、それよりも、大量に火星へと持ち込むことが重要になるでしょうから。
ということで、今回のお話は以上になります。
重力がなくなると、人類は地球から旅立たなくてはならないのですね。
重力、そして地球って、本当にありがたい存在です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
参考文献
- Discovery Channel | 宇宙飛行士の背中の痛み、ESAのスキンスーツが改善目指す
- ナショナルジオグラフィック | 宇宙飛行士の視覚障害の謎解明か、障害は不可避?(2016年12月2日)
- 地層科学研究所 | 地球のコアの温度を知る方法
もっと知りたい人のためのオススメ本
『もしも、地球からアレがなくなったら?』渡邉克晃・室木おすし(文友舎,2021)