こちらの写真は、黒い砂浜が広がる神奈川県鎌倉市の稲村ヶ崎。
七里ヶ浜のお隣です。
この黒い砂浜は砂鉄がたくさん採れることで有名なのですが、黒い砂の全部が砂鉄というわけではありません。
黒い砂を構成するおもな成分は、輝石という黒色の鉱物。
それに加えて、砂鉄(鉱物名は磁鉄鉱)が比較的多く含まれています。
海外から鉄鉱石が輸入されるようになるまでは、砂鉄が日本の鉄資源でした。
日本刀は鎌倉や島根の砂鉄で作られていたのですね。
ネオジム磁石を使った砂鉄の採集
砂鉄が採れることで有名な海岸ですので、実際にどれだけ採れるか実験してみました。
用意したものはこちら。
- ネオジム磁石(100円ショップのもので十分)
- ビニール袋
- 輪ゴム
用意は簡単ですね。
あとは磁石を引きずるだけです。
しかし、黒い砂浜と言えどもそのおもな成分は輝石ですので、ただ砂浜で磁石を引きずるだけでは、あまり砂鉄は集まりません。
この辺りの海岸には、波打ち際から少し陸側に来ると、やや青味を帯びたグレーの泥岩があります。
そのような泥岩の岩場付近を見てみると、黒い砂の表面に銀灰色の模様が浮き出ていて、いかにも砂鉄が集まっていそうな雰囲気。
というわけで、用意したネオジム磁石入りビニール袋をこの辺りで引きずってみると、予想通りどっさりと砂鉄が採れました。
鎌倉の海岸は特に砂鉄が多い場所ですが、実は普通の白い砂浜でも砂鉄採りは楽しめます。
ネオジム磁石を使った同様の方法でできますので、ぜひ近くの海岸でお試しください。
海岸が遠い場合は、河原や公園の砂場でもOKです。
大量の砂鉄はどこから来たのか
さて、鎌倉の稲村ヶ崎には本当に砂鉄が多いことがわかりました。
この大量の砂鉄は一体どこから来たのでしょうか。
一つ目の可能性としては、海岸に広がっていた泥岩の岩場。
この泥岩が風化したり侵食されたりすることで、中に含まれていた砂鉄が海岸に集積したのでしょうか。
しかし、この泥岩には砂鉄、つまり磁鉄鉱の粒子はほとんど含まれていません。
大量の砂鉄の供給源と考えるには、無理がありそうです。
もう一つの可能性として考えられるのは、海岸に流れ込む川をつたって、内陸部から運ばれて来たというもの。
実際に稲村ヶ崎の海岸に流れ込む音無川(おとなしがわ)の河口を見てみると、川底の砂にもたくさんの黒い粒子が含まれています。
これは可能性ありそうですね。
音無川の上流には、泥岩や砂質泥岩の地層が広がっていて、それらの中に軽石質の火山灰層が挟まれていることがわかっています。
この内、泥岩の地層は海岸の岩場で見られたのと同じ種類のもの。
ですので砂鉄はほとんど含まれていません。
砂質泥岩というのも、先ほどの泥岩よりやや粒子が大きいというだけで、岩石の成分としてはあまり変わりません。
砂鉄が含まれているとすれば、火山灰層です。
火山灰というのは、発泡したマグマが勢いよく空中に噴き出し、そのしぶきが急に冷えてガラス状の細かい砂粒になったもの。
成分としては、マグマと同じなのですね。
そして、マグマからは磁鉄鉱が比較的多くできますので、火山灰の中にも磁鉄鉱(砂鉄)が含まれているわけです。
ただ、この辺りの火山灰は白っぽい軽石質の火山灰で、マグマの中では磁鉄鉱が少なめの部類。
しかも、火山灰層は地層の主体ではなく、泥岩や砂質泥岩の中に挟まれている薄い層にすぎません。
鎌倉海岸の大量の砂鉄の供給源としては、やはりこの火山灰層も役不足に思えます。
文献を調べても、鎌倉の砂鉄の供給源はいまだによくわかっていないそうです。
上流の火山灰層は一つの有力な候補ですが、もしかしたらもっと別の、さらに遠くの地層から運ばれてきて集積したのかもしれません。
ザクザク採れる鎌倉の砂鉄は、まだ解明されていない地質学の謎でもあるのですね。