キャニオン・ディアブロ隕石の標本の一つ。幅9cm。Photo: Centpacrr (CC BY-SA 3.0)

隕石の年代を調べることで地球誕生の時期を推定

多くの科学者が地球誕生の時期を45〜46億年前と考えているわけですが、「約46億年」という数字は、隕石の形成年代を調べることで明らかになりました。調べられた隕石は、米国アリゾナ州のディアブロ渓谷で発見された「キャニオン・ディアブロ隕石」。この隕石は、巨大衝突クレーターとして知られるバリンジャー隕石孔を作った隕石のかけらで、ほぼ鉄とニッケルからなる金属の塊です(90%以上は鉄)。1950年代に「放射年代測定」という方法でこの隕石の形成年代が調べられたところ、45〜46億年という値が得られました。

隕石というのは太陽系の形成初期にできた岩石や金属の塊です。それらが宇宙空間で衝突しながら集まって微惑星になり、さらに成長して地球ができたわけですので、隕石は言わば「地球の材料」と言えます。そんな地球の材料の形成年代が約46億年と分かったことから、地球誕生の時期もそこからそう遠くない時期であろうと推定することができたわけです。

年代測定法の発達と測定データの蓄積により、現在では地球誕生の時期をより正確に見積もることができるようになりましたが、1950年代に推定された値とそれほど大きな差はなく、今でも概ね「地球の歴史は46億年」で通用します。

放射性元素のウランを「時計」として使った

これまで発見された中で最も大きいキャニオン・ディアブロ隕石の標本。重さ639キログラム。米国アリゾナ州メテオクレータービジターセンター(Meteor Crater Visitor Center)所蔵。Photo: Marcin Wichary (CC BY 2.0)

 

キャニオン・ディアブロ隕石の形成年代を調べるのに使われた「放射年代測定」という方法は、放射性元素のウランを「時計」として使う年代測定法です。

ウランやトリウムなどの放射性元素は、放射線を出しながら徐々に他の元素へと変化していきます。これを「壊変」と呼びますが、壊変の速度は放射性元素ごとに決まっていて、しかも温度や圧力によらず常に一定であることがわかっています。

例えばウランの場合、質量数238のウラン(ウラン-238)は、何度か壊変を繰り返して最終的に質量数206の鉛(鉛-206)になります。そしてその変化の速度はというと、最初にあったウラン-238の半分の量が鉛-206になるまでの時間が、約45億年。非常にゆっくりとした壊変です。なお、「質量数」とは水素原子の何倍の重さかを示す値で、「ウラン-238」ならば、水素原子238個分の重さのウランであることを意味します。ウランにはウラン-238のほか、原子力発電の核燃料に使われるウラン-235などがあります。

さて、砂時計の砂が落ちていくように、ウラン-238も時間の経過とともに段々と減っていくわけですね。砂時計であれば、砂が全部落ちるのにかかる時間が決まっているので、何度ひっくり返したかでおおよその経過時間がわかります。ウラン-238の場合もこれと同様に、半分になるまでの時間が決まっているので、それを元に経過時間を求めることができるのです。

ただし、この方法で直接キャニオン・ディアブロ隕石の形成年代を測定したわけではありません。測定したのは地球の岩石で、まずは「46億年」よりも新しい時代の岩石について、「どれくらいの経過時間でどれだけ鉛-206が増えたか」を丹念に調べました。地球の岩石にはもれなくウラン-238が含まれているので、壊変によって鉛-206が増えるのです。

そして、キャニオン・ディアブロ隕石には、ウランがほとんど含まれていないという特徴があります。ウラン-238がなければ、鉛-206は増えません。ということは、現在のキャニオン・ディアブロ隕石に含まれている鉛-206の量は、隕石ができた当初からこの隕石に含まれていた鉛-206の量ということになります。

鉛-206がどれくらいのペースで増えるのかは、ウラン-238の壊変速度に依存して一定です。従って、キャニオン・ディアブロ隕石の鉛-206の量と、地球の岩石の鉛-206の量(経過時間がすでに調べられている)を比較すれば、キャニオン・ディアブロ隕石の形成年代がわかるというわけです。

なお、ここでは「量」と言いましたが、鉛-206の絶対的な量(濃度)は、岩石によってまちまちなので、どれだけ増えたかを単純に比較することはできません。ここで言う「量」とは、鉛-204に対する鉛-206の存在比(相対的な量)のことです。

「岩石中の鉛」と一口に言っても、その内訳は、鉛-204、鉛-206、その他の質量数の鉛、が混ざったもので、岩石中の鉛の全てが鉛-206というわけではありません。そして、鉛-204と鉛-206の比率に関して言えば、ウラン-238の壊変によって鉛-206が増えない限り、常に一定なのです。ですので、鉛-204に対する鉛-206の存在比であれば、異なる岩石どうしでどれだけ増えたかの比較が可能になります。

放射年代測定には、ウラン-238を使う方法のほか、ルビジウム-87、トリウム-232、カリウム-40、ウラン-235を使う方法など、用途に合わせて多くの種類があります。1000万年を超えるような長い経過時間を測定する研究分野では、現在はルビジウム-87を使う手法が主流になっていますが、キャニオン・ディアブロ隕石の形成年代が測定された1950年代には、ウラン-238を使う方法が最良でした。

地球最古の岩石も「46億年」が正しいことを示している

アカスタ片麻岩(Acasta gneiss)の標本。ウィーン自然史博物館にて。Photo: Pedroalexandrade (CC BY-SA 3.0)

 

隕石の形成年代から求められた「約46億年」という地球の年齢を裏付けるように、地球最古の岩石として、約40億年前の岩石が見つかっています。アカスタ片麻岩(へんまがん)と呼ばれるその岩石は、カナダ北部、北極海に面したノースウエスト準州のアカスタ川付近で発見されたもので、黒と白の縞模様が特徴的です。成分は花崗岩とよく似ているものの、大昔の地殻変動によって高い圧力や温度にさらされ、シマシマの岩石に変化しました。

岩石としてはアカスタ片麻岩が最古のものですが、岩石中の鉱物としては、さらに古い約44億年前のジルコン(ジルコニウムとケイ素と酸素からなる鉱物)も見つかっています。この最古のジルコンは、西オーストラリアのジャックヒルズという丘陵地に分布する礫岩(れきがん)から取り出された、とても小さな粒子。

礫岩というのは、小石や砂利が集まってできた二次的な岩石であり、アカスタ片麻岩のようにマグマが固まってできた岩石とはちょっと異なります。最初にあった岩石が水の作用などで削られ、細かくなった岩石のかけらが別の場所に集積してできたわけですので、その中のジルコンの形成年代が44億年前といえども、礫岩そのものができたのはそれよりも後の時代ということになります。ジャックヒルズの礫岩ではなく、アカスタ片麻岩が最古の岩石だと言われるのは、こういう事情によります。

それにしても、44億年前の鉱物が地球上で発見されたなんて、驚きですね。地球誕生が46億年前だとして、最初はマグマの海に覆われたドロドロの世界だったので、岩石や鉱物などできていません。地球全体が液体の状態です。その後、温度が下がるにつれて岩石や海ができていきますが、安定した岩盤ができるまでにはある程度の長い期間が必要でした。それを考えると、地球で発見された44億年前の鉱物というのは、限りなく地球誕生の最初期に近いものだと言えるのです。

参考文献

コトバンク『地球の年齢

子供の科学Webサイト『地球ができたのは何年前ってわかるのは、なぜですか?』(2020年10月27日)

Granite『地球誕生46億年の根拠:放射性同位体から求めた地球の年齢は本当か?』(2018年2月3日)

萩谷宏『地球の年齢を測る…鉄隕石と鉱床鉛の研究

FNの高校物理『放射性年代測定法

Yahoo!ニュース『世界最古記録 40億2千万年前の岩石が語りかける太古の地球の姿』(2016年12月27日)

日経ナショナルジオグラフィックWeb版『地球最古の地殻、44億年前と年代特定』2014年2月25日

産総研『地球創世直後から地球磁場が存在した可能性が高まる』(2020年1月21日)

もっと知りたい人のためのオススメ本

渡邉克晃『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』(ベレ出版,2022)

書影『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』渡邉克晃(2022年11月18日刊行)
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地球の歴史が46億年と言われる理由(渡邉克晃『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』より)