アメリカ本土で随一の溶岩地形
美しいすり鉢状のこのクレーター、隕石の衝突跡かと思いきや、実は噴火によってできた火山クレーターなのです。
ここはアメリカ合衆国アイダホ州の中南部にある「月のクレーター国立公園」。
25か所以上の火口が直線状に並ぶ、アメリカ本土で随一の溶岩地形です。
一連の火口群は標高約1800メートルのスネークリバー平原にあるのですが、南北方向に伸びる地殻の割れ目に沿って並んでいます。
この割れ目は「グレートリフト(大地溝帯)」と呼ばれ、南北の長さはおよそ85キロメートル。
噴火時には割れ目に沿って溶岩が噴き上がり、長大な溶岩のカーテンが見られたことでしょう。
▼▼▼写真と図表を使った解説動画▼▼▼
1万5000年前から断続的に噴火
月のクレーター国立公園の溶岩地形は、地質時代としては最も新しい「完新世」という時代に形成されました。
完新世というのは、最終氷期が終わった約1万年前以降の地質時代のことで、私たちが生きている現代も完新世に含まれます。
溶岩の噴出が始まったのは1万5000年ほど前で、グレートリフト(大地溝帯)に沿って断続的に噴火を繰り返し、2000年前ごろに終息しました。
日本やアイスランドのような火山地帯ではないアメリカ本土で、地殻が裂けて溶岩が噴出するというのは、ちょっと不思議に感じるかもしれませんね。
月のクレーター国立公園のグレートリフトは、基本的にはハワイと同じホットスポット火山です。
と言っても、現在この場所がホットスポットというわけではありません。
ここから北東約300キロメートルのところにあるイエローストーンが、現在のホットスポットの位置なのです。
どういうことかと言いますと、ホットスポット火山は地球の奥深くにあるマントルから熱い岩石が上昇してきて、その岩石が地表付近でマグマとなり噴出するタイプの火山です。
ですから、マントルよりも上にある地球表面のプレートが動いても、ホットスポットの位置、つまり溶岩の噴出場所は変わらないわけですね。
ずっと昔、今からおよそ1000万年前には月のクレーター国立公園の下にホットスポットがありましたが、アメリカ本土を含む北アメリカプレートが移動することで、ホットスポットの位置が現在のイエローストーン付近になったのです。
ここで注意したいのが、「1000万年前にはまだ噴火していなかった」ということ。
月のクレーター国立公園がホットスポットの真上にあった頃は、ひたすら地下にマグマが溜め込まれていたのです。
そして、ホットスポットが去ってからもそのマグマ溜まりは残り続け、時代を経て1万5000年前ごろからようやく噴火が始まったというわけです。
独特の青い溶岩
この辺りの溶岩の様子も見てみましょう。
様々な火山噴出物が見られる月のクレーター国立公園の中でも、特に目を引くのが独特の青い溶岩。
多くは黒や茶色といった一般的な色の溶岩なのですが、場所によっては鮮やかなコバルトブルーの溶岩が見られるのです。
「ブルードラゴン溶岩流」と呼ばれるこの青い溶岩は、岩石の種類としては玄武岩。
青いのはその表面部分だけです。
磁鉄鉱という鉄の鉱物の微粒子が、酸化したりチタンを取り込んだりしてこのような色になったと考えられています。
また、「ブルードラゴン溶岩流」の表面には縄目状の模様が見えますが、このような外見の玄武岩を「パホイホイ溶岩」と言います。
典型的なのはハワイの溶岩で、「パホイホイ」の語源もハワイ語。
意味は「表面が滑らかで砕けていない溶岩」とのことです。
青い溶岩の他に、溶岩樹型や溶岩洞も特徴的です。
溶岩樹型というのは、噴火時に溶岩に飲み込まれた樹木が、焼失後にその組織や外形を溶岩の表面に残したもの。
「溶岩でできた木」というわけではなく、溶岩の表面に写し取られた「樹木の形跡」です。
また、溶岩洞というのはその名の通り溶岩の洞窟ですが、でき方がちょっと意外。
水蒸気の抜け穴とかではなく、溶岩の通り道がトンネルになったものなのです。
溶岩流の岸辺には冷えて固まった溶岩が集積し、堤防ができるのですが、やがてこの溶岩の堤防が高く成長すると、溶岩流の上面でくっついてしまいます。
こうして、溶岩の通り道が洞窟になるというわけです。
溶岩洞は構造的に脆く、侵食に弱いので、比較的新しい溶岩地形でないと見ることができません。
溶岩洞もまた、完新世の溶岩地形である月のクレーター国立公園だからこそ観察できる、特徴的な地形の一つなのです。
参考文献
- 日本地質学会 | アメリカ、アイダホ州 Craters of the Moon National Monument and Preserve 完新世火山地帯紹介
- Craters of the Moon Website | 月のクレーター国立公園(Japanese)
- American Mineralogist | “Blue Dragon” Basalt from Craters of the Moon National Monument, Idaho: Origin of Color
場所の情報
もっと知りたい人のためのオススメ本
渡邉克晃『美しすぎる地学事典』(秀和システム,2020)