地学博士のサイエンス教室 グラニット

地球科学コミュニケーター・渡邉克晃のブログです。

石灰華の段丘が広がる温泉地帯。ワイオミング州イエローストーン国立公園

炭酸塩のテラス(イエローストーン国立公園)
©️jbark44 / Pixabay

石灰華が階段状に重なった段丘

アメリカ合衆国ワイオミング州北西部を中心に広がるイエローストーン国立公園は、5つの地域(カントリー)からなる広大な自然公園です。

写真の温泉地帯は、マンモス・カントリーにある「マンモス・ホットスプリングス」。

イエローストーン国立公園の北端に近い場所に位置しています。

 

ここの温泉地帯に見られる段々畑のような地形は「テラス」と言い、マンモス・ホットスプリングスのテラス地形は世界最大。

一番大きな段丘が見られる写真の場所は、「テラス・マウンテン」と呼ばれています。

数千年かけて炭酸カルシウムが沈殿し、このような石灰華(せっかいか)の段丘ができました。

 

ところで、温泉地帯には石灰華が良く見られるのですが、「温泉だから」できると言うわけではありません。

石灰華ができるのは、この場所が石灰岩地帯だからです。

 

マンモス・ホットスプリングスの一帯では、マグマによって加熱された地下2400メートルから4800メートルにある塩水が、石灰岩の地層を通って地上に湧き出ています。

そのため、温泉水には石灰岩の成分である炭酸カルシウムがたくさん溶け込んでいて、地上に湧き出すことでそれらが周囲に沈殿するのです。

 

石灰岩地帯と言えば鍾乳洞を思い浮かべる人も多いと思いますが、鍾乳石も石灰華の一種であり、成分は同じく炭酸カルシウム。

温泉かそうでないかの違いはありますが、基本的には同じ仕組みで沈殿しています。

 

それから、テラスの色にも着目してください。

炭酸カルシウムの沈殿自体は白色なのですが、写真を見ると様々な色が付いていますよね。

茶色、オレンジ、赤、緑などの色は、表面に生育しているバクテリア(藻類)の色。

チョークのような白い色の部分が元々の炭酸カルシウムの色なのです。

 

世界最大のマグマだまりを持つイエローストーン火山

イエローストーン国立公園のある辺りは北アメリカ大陸最大の火山地帯で、数百か所から熱水(マグマに熱せられた熱い地下水)が湧き出しています。

中心部にあるイエローストーン火山の火口(カルデラ地形)の大きさは、直径60キロメートルほど。

この辺り一帯では、毎日45トンもの大量の二酸化炭素が放出されていることがわかっています。

 

イエローストーン火山の地下にあるマグマだまりは世界最大と言われていて、地下20キロメートルから50キロメートルの深さにかけて、容積約4万6000立方キロメートルもの巨大なマグマが存在します。

この深くて大きなマグマだまりに貯蔵されたマグマは、もっと浅い場所にある別のマグマだまりへと流れ込んでいて、その浅いマグマだまりがカルデラ地形の真下まで達している。

 

つまり、イエローストーン火山のマグマだまりは2段に分かれているのです。

マンモス・ホットスプリングスなどの熱水を作っているのは、浅いマグマだまりの方。

そちらもかなり大きく、地下4キロメートルから14キロメートルにかけて、容積約1万立方キロメートルのマグマが存在しています。

 

実は、以前から知られていたのはこちらの浅い場所にあるマグマだまりの方で、より深いところにある世界最大のマグマだまりの存在が明らかになったのは、2015年のことです。

ユタ大学(アメリカ合衆国ユタ州)の研究チームが、学術雑誌『サイエンス』に論文を掲載して話題になりました。

 

次の図は『サイエンス』誌からの引用です。

イエローストーンの地下にある2つのマグマだまり
イエローストーンの地下にある2つのマグマだまり(©︎Huang et al., 2015 / Sience Vol. 348

 

図の真ん中辺りに描かれている赤い台形の部分が、より深い場所にある巨大なマグマだまりで、その下面は地下50キロメートルにまで達しています。

これは、マグマだまりの底が、地殻の下にあるマントルに接していることを意味します。

図中に濃い青色で描かれている帯状の部分が、マントルの最上部です。

過去に起きた巨大噴火は3回

ところでこのマグマ、意外なことに完全にドロドロになっているわけではありません。

それどころか、むしろ「ほとんど固まった状態」の熱い岩石で、あちこちが部分的に溶けている程度の状態なのです。

 

深い方のマグマだまりでは、溶けている割合が全体の2パーセントほど。

浅い方でも、およそ9パーセント(最大でも32パーセント)と見積もられています。

 

意外ですよね。

これなら、いくら巨大なマグマだまりがあっても、噴火の心配はなさそうに思えます。

 

でも、イエローストーン火山に巨大なカルデラ地形ができていることからもわかるように、噴火しないというわけではありません。

 

イエローストーン火山では、過去に3回の巨大噴火がありました。

およそ210万年前、130万年前、64万年前の3回です。

これらの巨大噴火における火山噴出物の量(火山灰、噴石、溶岩などを合わせた量)は、それぞれ約2500立方キロメートル、280立方キロメートル、1000立方キロメートル。

 

いずれもものすごい量なのですが、数字だけだとちょっとイメージが湧きません。

上記の火山噴出物の量を現代の噴火と比較してみると、64万年前の巨大噴火が、1980年に起きたセントヘレンズ山(アメリカ合衆国ワシントン州)の噴火の約1000倍に相当します。

 

セントヘレンズ山の噴火は大規模な山の崩壊が起きた噴火で、かつて標高2950メートルだったセントヘレンズ山の山頂部分(約400メートル)が完全に吹き飛び、かつ深さ800メートルほどの巨大な火口が形成されました。

これだけの噴火ですから相当な量の火山噴出物だったことが想像できますが、それでも1立方キロメートルほどなのです。

 

イエローストーン火山はこの1000倍の規模。

信じられないほどの巨大噴火だったことがわかります。

地下2900kmから上昇するマントルプルーム

イエローストーン火山の巨大なマグマだまりにマグマを供給しているのは、マントル内の上昇流である「ホットプルーム」。

最後にホットプルームについて、簡単に説明したいと思います。

 

マントルというのは、深さ数十キロメートルから2900キロメートルまでの岩石の層のことで、地球の体積の大部分(82パーセントほど)を占めています。

マントルの上に乗っている薄い岩石の層が地殻。

そして、マントルの下には鉄とニッケルでできた核があり、地球の中心部分を構成しています。

 

マントル内の大規模な対流運動のことを「マントルプルーム」と言いますが、マントルプルームには2種類あって、上昇する熱い流れが「ホットプルーム」、下降する冷たい流れが「コールドプルーム」です。

ホットプルームは、マントルと核の境目である地下2900キロメートル付近で、核に熱せられた高温のマントルが上昇することで生じます。

 

イエローストーン火山の地下では、このホットプルームが深さ60キロメートルほどの所まで上がってきていて、巨大なマグマだまりへとマグマを供給しているのです。

参考文献

場所の情報

もっと知りたい人のためのオススメ本

渡邉克晃『美しすぎる地学事典』(秀和システム,2020)

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