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崖下を埋める無数の土柱群

崖の下に無数の土柱群が立ち並ぶこの場所は、アメリカ合衆国ユタ州南部のブライスキャニオン。

オレンジ、ピンク、茶色、白といった明るい色の岩石が、雨水による侵食と凍結による破壊で徐々に削られていって、このような土柱群ができました。

 

まずはこのカラフルな地層について、少しご紹介したいと思います。

ブライスキャニオンの土柱群(©︎m01229 / flickr

 

土柱群ができているブライスキャニオンの地層は、およそ6300万年から4000万年前の地層で、おもに泥岩と石灰岩と礫岩でできています。

それぞれ、泥岩は泥や粘土が固まった岩石、石灰岩は炭酸カルシウムを主成分とする岩石、礫岩は粗い砂や小石が固まった岩石、です。

 

そして、これらの岩石の大部分がオレンジ、ピンク、茶色などの赤みがかった色をしているわけですが、基本的には酸化した鉄分の色(鉄さび色)が原因。

マンガンなどその他の元素も関係していますが、一番は鉄分の色なのです。

例えば、白い石灰岩に鉄さび色が加わるとピンク色になりますし、ベージュ色や灰色の泥岩に鉄さび色が加わると、オレンジや茶色になります。

 

泥岩、石灰岩、礫岩といったブライスキャニオンの地層は、岩石の種類は異なるものの、全て海の中で形成された地層です。

つまり、4000万年以上前、この辺り一帯は海の底だったわけですね。

そして、岩石の違いというのは「陸からの距離の違い」を表しています。

 

どういうことかと言いますと、同じ海の底で沈殿した地層であっても、陸から近い海であれば、荒い砂や小石(粒子の大きいもの)が比較的多く沈殿します。

一方、海水面が上昇するなどしてその海域が陸から遠くなってしまうと、粒子の大きな砂や小石はなかなか沖合まで運ばれてくることができず、もっと粒子の細かい、泥や粘土が沈殿することになります。

さらに陸から遠くなれば泥や粘土すらも運ばれなくなり、そういった遠洋性の環境では、おもに石灰岩の成分が沈殿するようになる。

 

このように陸からの距離が変わることで、ブライスキャニオンの地層は、泥岩、石灰岩、礫岩という変化を繰り返してきたのです。

もちろんこれらは大まかな区分であって、中間的な岩石、例えば「石灰岩の成分を含む泥岩」なども、ブライスキャニオンには見られます。

コロラド高原の隆起と石灰岩の溶解

さて、ここからはブライスキャニオンの形成プロセスについてです。

この独特の土柱群は一体どのようにしてできたのでしょうか。

 

本格的な侵食が開始されたのは、コロラド高原が上昇(隆起)した約1500万年前以降だと見られています。

この時代に起こった大規模な隆起により、ブライスキャニオンを含むコロラド高原一帯は、標高の異なる9つの小さな高原に分かれました。

 

その一つが、ブライスキャニオンの頂上部分の地面を構成しているポンソーガント高原です。

標高はおよそ2400から2700メートルで、同じコロラド高原に位置するグランドキャニオンの頂上部分(標高約2100メートル)よりもかなり高い。

土地の侵食速度は標高が高くなるほど大きくなる傾向にありますので、ブライスキャニオンの侵食も、この時代の隆起をきっかけにして本格的に始まりました。

 

ただし、「キャニオン(渓谷)」という名前がついているにもかかわらず、ブライスキャニオンは谷川の流れで形成された地形ではありません。

つまり、土柱群の間を流れる川が存在しないのです。

 

ブライスキャニオンの形成は、おもに雨水による侵食および溶解が原因です。

コロラド高原の隆起の際に、地層の中に垂直方向の割れ目がいくつもできたのですが、その割れ目に沿って雨水が染み込むことで徐々に割れ目が広がっていきました。

それと同時に、石灰岩の部分では溶解が進行。

 

雨水というのは空気中の二酸化炭素が溶け込んで弱酸性になっていますので、酸性の水に溶けやすい性質の石灰岩を、徐々に溶かしていったのです。

こうして、割れ目を流れる雨水によってポンソーガント高原の侵食と溶解が進行し、土柱群ができていったのです。

冬の凍結も侵食を促進する

もう一つ、土柱群の形成プロセスとして大切な現象があります。

それは、冬場の凍結による岩石の破砕です。

 

気温の下がる冬、ブライスキャニオンに雨や雪が降ると、昼間のうちに割れ目に染み込んだ水分が、夜間に凍結します。

すると、水は凍ると体積が膨張しますので、中で凍った水が割れ目を押し広げようとして、細かい破砕が起こるのです。

その結果、破砕された部分はもろくなって、侵食や溶解の影響をより受けやすくなるというわけです。

 

まとめると、隆起でできた垂直の割れ目、雨水による侵食、雨水による石灰岩の溶解、冬場の凍結による破砕、の4つの現象が合わさって、ブライスキャニオンの土柱群が作られていきました。

 

なお、土柱群に多数のくびれがあるのは、岩石ごとに侵食のされやすさ、あるいは溶解のされやすさが異なるからです。

例えば、石灰岩の部分は優先的に細くなっていきますが、石灰岩の中でもマグネシウムを多く含む石灰岩は、溶解に強いために比較的太いまま残ります。

また、泥岩の部分は石灰岩よりも太いまま残りやすいですが、泥岩の中でも侵食のされやすさに違いがあります。

 

侵食・溶解のされやすさが異なる地層が、水平に何層も積み重なっているため、土柱群には水平方向にいくつものくびれができるのです。

参考文献

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