ワイオミング州ブラック・ロック火山岩
©︎James St. John / flickr

マントルに発生源を持つ珍しい溶岩

アメリカ合衆国ワイオミング州南西部に、リューサイト・ヒルズと呼ばれる火山岩地帯があります。

この一帯で見られる溶岩はおよそ300万年前から90万年前に噴き出したもので、リューサイト・ヒルズのあちこちには、溶岩でできたテーブル状の岩山が点在しています。

冒頭の写真はその中の一つ、ブラック・ロック。

 

溶岩にはいくつかのタイプがありますが、リューサイト・ヒルズの溶岩は、ランプロアイトと呼ばれるとても珍しい種類のものです。

ランプロアイト溶岩は、10億年以上も前に地下深くで化学変化を起こしたマントル(地球深部の岩石)が、その後の火山活動で地上に噴き出して来た溶岩。

二酸化ケイ素の量が玄武岩質の溶岩よりもさらに少なく(45パーセント未満)、リューサイトという白っぽい鉱物を含むのが特徴です。

「リューサイト・ヒルズ(リューサイトの丘)」という地名は、ここから来ているのですね。

 

また、ランプロアイト溶岩の中には、しばしばカンラン石の小石が取り込まれています。

次の写真のような、コロコロとした緑色のきれいな小石です。

ランプロイト溶岩に捕獲されたマントルのオリビン
ランプロアイト溶岩に入っていたカンラン石の小石(©︎James St. John / flickr

 

こちらの写真のカンラン石は、ブラック・ロックの岩山が削られることで集積した、周辺の土砂の中から拾い集めたものだそうです。

けっこうたくさんありますね。

 

「カンラン石」という名前は日本語名で、英語名はオリビン(オリーブ色だから)。

そして、美しい結晶は宝石にもなり、ペリドットという宝石名で呼ばれることもあります。

 

カンラン石はマントルを構成する主要な鉱物ですので、地下深くにはたくさんあるわけです。

つまり、マントルの中でできたランプロアイト溶岩が地上に向かって上昇してくる時、その通り道はカンラン石だらけ。

途中で周りのカンラン石を「捕獲」しながら地上へと噴出したため、ランプロアイト溶岩の中にはカンラン石の小石が取り込まれているのです。

 

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切り株みたいな岩山の形は侵食地形

ところで、冒頭のブラック・ロックの写真、なんだか木の切り株みたいですね。

切り株の正体は冷えて固まったマグマの通り道で、言わば溶岩でできた「パイプ」です。

元々は地中に埋まっていたのですが、周りの地層が侵食されることで地表に露出するようになりました。

 

リューサイト・ヒルズは火山活動の中心でしたので、この辺りにはかつていくつかのマグマの通り道(火道と言います)があり、噴火が起こっていたわけですね。

ブラック・ロックもそんな噴火の跡であり、火山の名残り。

 

簡単に、噴火当時のブラック・ロックを想像してみましょう。

 

まず、10億年以上も前の化学変化で特殊な成分になったマントルが、ずっと後の時代のマントルの運動で部分的に溶かされ、ランプロアイト質のマグマができます。

そして、ランプロアイト質のマグマは何本かの火道を通って地表付近に到達し、その内の一本がブラック・ロックの場所で噴火しました。

噴火によって周囲には火山灰が降り積り、落下した噴石で山ができ、さらに流れ出た溶岩が火口にたまって、溶岩湖を形成。

こうした火山地形が、当時はできていたことでしょう。

 

それから長い時間が経過し、今度は侵食によって火山地形が削り取られて行きました。

溶岩湖も、噴石の山も、火山灰が降り積もった土壌も、さらにはその下の地層までも広範囲に渡って削り取られてしまい、その結果、かつてのマグマの通り道が地表に顔を出した。

 

これが、切り株みたいなブラック・ロックの形成過程です。

ブラック・ロックはマントル深部と地上をつなぐ溶岩のパイプ。

そのパイプの先端が、このように見えているわけですね。

ダイヤモンドを産するキンバーライトと似た岩石

ダイヤモンドの原石を産出することで有名な、キンバーライトという岩石があります。

このキンバーライト、実はリューサイト・ヒルズに見られるランプロアイトとよく似た岩石なのです。

 

含まれる鉱物に違いはあるものの、どちらもマントルに発生源を持つマグマが地表付近まで上昇して来てできた岩石。

ですから、マントルの中と地上をつなぐパイプであり、キンバーライトにもマントルで捕獲した石ころが取り込まれているわけです。

ダイヤモンドというのは、まさにそのようにして地上に運ばれて来た、マントルの中の石ころだったのです。

 

地上にダイヤモンドを運んできた岩石、キンバーライト。

それならば、よく似た岩石であるランプロアイトにも、ダイヤモンドが入っているかもしれませんよね。

 

実際にその通りで、ランプロアイトもダイヤモンドを産出する岩石なのです。

リューサイト・ヒルズのランプロアイトではありませんが、西オーストラリアにある世界最大級のダイヤモンド鉱山、アーガイル鉱山では、ランプロアイトからダイヤモンドが産出しています。

参考文献

場所の情報

もっと知りたい人のためのオススメ本

渡邉克晃『美しすぎる地学事典』(秀和システム,2020)


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