ルーレイ洞窟を彩る様々な鍾乳石
洞窟内の明かりに照らされてオレンジ色に輝くのは、通称「ベーコン」と呼ばれる薄く広がった鍾乳石。
天井からひらひらと波打ちながら垂れ下がる様子と言い、ツヤツヤした質感やこんがりと焼けたような色味と言い、確かにベーコンに似ていますね。
こちらの鍾乳洞は、アメリカ合衆国バージニア州北部にあるルーレイ洞窟です。
ブルーリッジ山脈の北西側を走るシェナンドー渓谷に位置していて、鍾乳洞ができている地層は、およそ4億8000万年前のドロマイト(マグネシウムに富む石灰岩)の地層。
ブルーリッジ山脈と言われてもピンと来ないかも知れませんが、アメリカ東部の大山脈であるアパラチア山脈の一部をなす山脈です。
アパラチア山脈は北東から南西に伸びており、その南東側に寄り添うように、ブルーリッジ山脈がある。
ルーレイ洞窟のあるシェナンドー渓谷はブルーリッジ山脈の北西側ですので、ちょっとややこしいですが、ブルーリッジ山脈とアパラチア山脈本体との間にできている渓谷、ということですね。
そのように山脈に挟まれた場所にあるルーレイ洞窟が発見されたのは、1878年のこと。
一般に公開されている道のりだけでも2.4キロメートルもの長さがあり、洞窟内には、鍾乳石、石筍(せきじゅん)、石柱、流華石(りゅうかせき/フローストーン)など、石灰岩成分が作る多彩な装飾が見られます。
それぞれを簡単に説明しますと、天井からぶら下がる「つらら」のような形のものが鍾乳石。
鍾乳石から下向きに落ちたしずくによって地面から成長し、タケノコのように上に向かって伸びているものが石筍です。
そして、下向きに伸びる鍾乳石と上向きに伸びる石筍がつながって、一本の柱のようになったものが石柱。
流華石というのは、石灰岩の成分が洞窟の壁一面を覆っているもので、洞窟の壁の形状に合わせて、波打ったりクラゲのような形になったりします。
広い意味ではこれら全てが「鍾乳石」ですが、形態の違いで分類する際には、このように様々な名前が使われています。
なお、冒頭の写真の「ベーコン鍾乳石」は、カーテンと呼ばれることが一般的です。
普通の鍾乳石は、天井から「ポタッ、ポタッ」と落ちる滴でできますが、天井にとどまる水がもっと多くなると、このようなカーテン状の形態に成長します。
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二酸化炭素に富む地下水ほど石灰岩の成分を多く溶かし込む
石灰岩の地層の中に洞窟ができるのは、石灰岩が雨水や地下水に溶けるからです。
地下に染み込んだ雨水や地下水には、大気中の二酸化炭素に加えて、土壌中の豊富な二酸化炭素も溶け込んでいます。
そうして弱酸性になった地下水が石灰岩の地層に到達すると、石灰岩は酸性の水に溶けやすい岩石なので、地下でどんどんと溶かされて行ってしまいます。
その結果、洞窟ができる。
さて、ただ石灰岩が溶けて洞窟ができただけでは、鍾乳洞にはなりません。
鍾乳洞というのは、洞窟の壁に鍾乳石や石筍などがたくさん成長することでできるわけです。
ですので、石灰岩を溶かすプロセスの他にもう一つ、地下水に溶けた石灰岩の成分を、再沈殿させるプロセスが必要になります。
溶かしておいて、また沈殿させるのですね。
では、沈殿のプロセスというのは一体どうなっているのでしょうか。
洞窟内における石灰岩成分の再沈殿は、二酸化炭素と石灰岩成分(炭酸カルシウム)を豊富に含む地下水が、洞窟の壁から染み出してくることで起こります。
石灰岩の成分である炭酸カルシウムは、地下水中に二酸化炭素が多ければ多いほど、よく溶け込みます。
二酸化炭素が多い方が地下水の酸性が強くなるので、その分、たくさんの石灰岩成分を溶かし込めるわけですね。
ところが、洞窟の壁から染み出したとたん、地下水中に豊富に含まれていた二酸化炭素は抜けて行ってしまうのです。
洞窟の中の空気というのは、ものすごく小さな空気の通り道によって外の空気とつながっているため、二酸化炭素の濃度が洞窟の外と変わりません。
つまり、土壌中の二酸化炭素を溶かし込んだ地下水にとっては、洞窟内の空気というのは、とても二酸化炭素の濃度が低い空気なのです。
だから、洞窟の壁から染み出して空気に接すると、二酸化炭素は逃げて行ってしまう。
上述の通り、地下水中の二酸化炭素が多いほど石灰岩の成分を多く溶かし込めますので、二酸化炭素が抜けてしまえば、地下水中に溶け込んでいた石灰岩の成分はもはや溶けていることができなくなります。
その結果、洞窟の壁に沈殿していくというわけです。
地底湖に映るオレンジや茶色の鍾乳石
こちらの写真は、ドリーム・レイクと呼ばれるルーレイ洞窟内の地底湖です。
鏡のような水面に鍾乳石が反射し、まるで湖面の下にも鍾乳石が生えているようですね。
しかも結構な深さがありそうに見えます。
ところが、この地底湖の水深は最大でも50センチメートルほどで、とても浅い。
湖が深く見えるのは、鏡のような湖面が作るイリュージョン(錯覚)なのです。
ルーレイ洞窟には大小様々な地底湖があり、中には「浅そうに見えて実は深い」という、ドリーム・レイクとは逆のパターンもあるということです。
このような景色のほか、洞窟内には高さ30メートルほどもある巨大な空洞や、長さ15メートルを超える鍾乳石など、実に変化に富んだ景色が広がります。
鍾乳石の色彩も、茶色一色かと思えばそんなことはなく、オレンジ、茶色、白、淡い青緑など、意外とバリエーションが豊富。
石灰岩の成分である炭酸カルシウムは白色ですので、鍾乳石の色は基本的には白色です。
そこに土壌や岩石に含まれる微量な不純物が混ざり、着色するわけですね。
オレンジ(黄色や赤)と茶色は、鉄の酸化物の色。
黒っぽい色はマンガンの酸化物で、淡い青や緑は銅の化合物が作る色です。
こうして洞窟内の鍾乳石は微妙に色味を変えながら、美しい地底世界を作り上げているのです。
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もっと知りたい人のためのオススメ本
渡邉克晃『美しすぎる地学事典』(秀和システム,2020)