頭の中で土を作ってみよう
森や山の土は、何でできていると思いますか。
思いつくまま、土に含まれているものを挙げてみてください。
まずは砂や小石。
それから、腐った落ち葉やもっと細かい有機物。
有機物には、動物の死骸や糞が分解されたものも含まれますね。
これらに加え、無数の微生物とミミズなどの小動物もいるでしょう。
このように土には様々なものが含まれていますが、大雑把に分ければ、砂や小石などの無機物と、腐った落ち葉などの有機物でできているという認識ではないでしょうか。
確かにその通りなのですが、砂や小石などの無機物に関して、少しだけ補足しなければならないことがあります。
そのことを詳しく見ていくために、まずは頭の中で土を作ることから始めましょう。
土に含まれる無機物の代表的なものは、砂ですね。
砂は細かく砕かれた岩石です。
手始めに、砂と有機物の代表である腐った落ち葉を混ぜてみることにします。
頭の中で。
なんとなく土っぽいものはできますが、砂がパラパラしていて、あのしっとりとした森の土のような感じにはなりません。
砂の粒が粗いせいでしょうか。
確かに、土には砂よりももっと細かい石の粉が混ざっているように見えます。
そこで次に、砂を細かくしてみます。
すりつぶして、砂つぶが見えなくなるくらい細かい粉にしてみましょう。
それから腐った落ち葉と混ぜて、水も少し加えてしっとりさせてみます。
より一層、土っぽくなりましたね。
ほぼ土と言ってもいいかもしれません。
しかし、まだ何か足りません。
それは、土を指で触った時の、あの粘り気です。
土には砂よりももっとベタベタしたもの、つまり、泥が入っているのです。
土を土らしくしている泥の正体
砂と腐った落ち葉を混ぜても土らしくならず、砂をさらに細かくしても、まだ何か足りない。
その足りないものとは、泥。
では、泥というのはいったい何者でしょうか。
砂よりも細かいことは確かですが、先ほど頭の中でイメージしたように、砂を細かくすりつぶしても、ベタベタとした泥っぽい感じにはなりません。
あの粘り気、サラサラの砂とは明らかに違います。
泥に粘り気があるのは、その中に粘土が含まれているからです。
そう、土を土らしくしているのは、泥の中の粘土なのですね。
粘土は、砂を細かくすりつぶした石の粉とは、根本的に異なる物質です。
砂つぶを作っている鉱物が化学的に変化して、別の鉱物になることで粘土が生成します。
これを粘土鉱物と呼んでいます。
化学的な変化というのは、水による風化作用のことです。
砂つぶを構成する粒子には、石英とか、長石とか、黒雲母などの鉱物が含まれているのですが、長石や黒雲母は比較的風化作用を受けやすい鉱物。
雨水や河川の水に長時間さらされることで、元素の一部が抜けて結晶構造の異なる粘土鉱物へと変化していきます。
泥には、この粘土鉱物がたくさん含まれています。
ただし100%粘土でできているわけではなく、粘土になっていない細かい石の粉も含まれます。
砂よりも細かい石の粉と、粘り気のある粘土鉱物が混じり合ったものが、土を土らしくしている泥の正体です。
粘土鉱物はシート状の超微細な鉱物
粘土鉱物には際立った特徴が2つあります。
それは、シート状の構造をしていることと、とても微細であること。
まずシート状の構造についてですが、基本的に粘土鉱物は、ケイ素、アルミニウム、マグネシウム、酸素などが平面的(二次元的)につながった構造をしています。
シートの厚さは1nm(ナノメートル)ほどで、なんとコピー用紙の10万分の1という極薄サイズ。
この極薄シートが1000枚くらい重なっていて、各シートの間にはカリウム、ナトリウム、カルシウムなどの陽イオンや、水分子がしばしば挟まれています。
このシート状の構造が、粘土鉱物の際立った特徴の一つ。
とは言うものの、実はシート状の構造は粘土鉱物だけに見られるものではなく、粘土ではない一部の鉱物にも見られます。
その代表が、黒雲母や金雲母といった「雲母」と呼ばれる板状の鉱物です。
花崗岩に含まれている黒雲母も粘土鉱物と同じく極薄シートでできていて、板状の比較的大きな結晶の表面にセロテープを貼り付けて剥がすと、シートが1枚ずつペラペラと剥がれてきます。
そう言うわけで、シート状の構造をしていることに加え、2番目の特徴である「とても微細であること」が重要になってきます。
粘土鉱物は滅多に大きな結晶になることがなく、そのほとんどが2μm(マイクロメートル)以下の微細な粒子として存在しています。
先ほどのnm(ナノメートル)の単位と比較すると、2μm=2000nmなので、けっこう大きいように思えるかもしれません。
しかし、「2μm以下」というのは非常に細かい粒子なのです。
例えばセメントの製造工程では原料の石灰石を粉々に砕いて粉末にしますが、その時の粒子の大きさは数十μmといったところです。
石の粉と粘土では、同じく微細な粒子でもずんぶんと差があるわけですね。
粘土は岩石や砂の風化作用によって生まれた特別に微細な鉱物なので、単に岩石を砕いただけの粉末とは一線を画するものなのです。
実際、泥の中には砂よりもはるかに細かい石の粉が混ざっていますが、それらは2μmよりも大きく、鉱物の種類としても、粘土に変化していない石英や長石などからなっています。
石の粉では決して到達できないほどの微細なサイズ。
これが粘土鉱物の、2つ目の際立った特徴になります。
粘土鉱物はシート状の構造と微細なサイズという特徴によって、粒子の表面や内部に多くの水分子を保持することができます。
そのため、水を含むことで特有の粘り気が出てくるのです。
このように、土に含まれている無機物は単なる砂や石の粉ではなく、その中には化学的に変化した粘土鉱物が大量に混ざっているわけですね。
砂と腐った落ち葉を混ぜても土にはならず、土ができるには、砂から粘土への根本的な変化が不可欠なのです。
参考文献
上原誠一郎『粘土基礎講座I 粘土の構造と化学組成』粘土科学40,100-111(2000).
鹿児島大学理学部『粘土鉱物学基礎講座 粘土鉱物の構造』
吉井豊藤丸『セメント工場における粉砕と収塵』窯協65,20-22(1957).
もっと知りたい人のためのオススメ本
渡邉克晃『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』(ベレ出版,2022)
※この記事の内容を含め、身近な地質学の話題がたくさん紹介されています。