山は巨大な岩でできている
海辺の砂浜で山をつくった思い出はありますか。
砂を手でかき集めて、盛り上げて、少し湿って固くなった砂山に模様をつけたり、トンネルを掘ったり。
人にとって「山を作る」というのは、このように砂や土を盛り上げることですね。
もっと大きなサイズで言えば、宅地造成のための盛土(もりど)も、人工的に作られる山です。
ショベルカーなどの重機を使って大規模な造成地を作っていきますが、基本的には海辺の砂山と同じく、土や小石を盛り上げただけのもの。
では、この調子で土をどんどん盛り上げていけば、自然の山ができるでしょうか。
別の言い方をするなら、自然の山も、大量の土や小石が積み重なってできたものなのでしょうか。
実は、そうではありません。
自然の山は、基本的に巨大な岩でできています。
山に行けば足元には土がありますが、その土を掘り進んでいくと、1〜2mも掘れば硬い岩盤に突き当たるのです。
山の土は巨大な岩の表面を覆っているだけの薄い層で、山の本体はその下にある硬い岩石。
ですから、大雨や地震で崖崩れが起きると、表面の土砂が斜面を流れくだり、その下にある岩盤がむき出しになります。
では、巨大な岩である山は、どのようにしてできるのでしょうか。
水の彫刻と溶岩の重なり
山ができる方法には、2つあります。
それは、盛り上がった岩盤が水で削られるか、噴き出した溶岩が積み重なるか。
まずは一つ目の、「盛り上がった岩盤が水で削られる」を見ていきたいと思います。
地下の岩盤は、地球全体で見ると厚さ100kmほどの薄い板(プレート)になっていて、その下にある熱くて少しだけ柔らかい岩石の上に乗って、非常にゆっくりと移動しています。
その速度は、年間1〜10cm程度。
このプレートの動きが岩盤どうしの衝突を引き起こすため、ぶつかった境界部分には非常に大きな力がかかり、岩盤を無理やり押し曲げてしまいます。
その結果、まるで布にシワができるように岩盤は変形し、その辺り一帯は盛り上がっていくのです。
盛り上がった岩盤は、標高が高くなるにつれ雨や氷河による侵食を受けるようになります。
流れる水で削られたり、氷の重みで削られたりするわけですね。
その結果、盛り上がった岩盤には谷が刻まれ、私たちがよく知っている険しい山脈の姿になっていくのです。
というわけで、一つ目の山のでき方は、盛り上がった岩盤を素材にした水による彫刻。
ヒマラヤ山脈、アルプス山脈、日本の飛騨山脈や木曽山脈などがこのタイプの山です。
次に2つ目の、「噴き出した溶岩が積み重なる」について。
これは火山のことです。
火山では地下に蓄えられたマグマが噴き出し、溶岩となって火口周辺を覆います。
繰り返し噴火が起こることで、火口周辺の溶岩はどんどんと積み重なっていき、次第に大きな山へと成長。
溶岩だけでなく、降り積もる火山灰や噴石も積み重なっていきますが、基本的には溶岩という「岩」からできた山であって、土や砂を盛り上げただけのものとは異なります。
日本の富士山(成層火山)、雲仙・普賢岳(溶岩ドーム)、ハワイのキラウエア火山(楯状火山)など、火山にはいくつかのタイプがありますが、いずれも溶岩でできた岩山であることに変わりありません。
なお、岩盤の盛り上がりでできた山脈も、溶岩の積み重なりでできた火山も、風化や侵食が進めば徐々に低くなってしまいます。
長い年月のうちに、やがては「山」でなくなってしまうでしょう。
山が山であり続けるには、岩盤が盛り上がり続けなければなりませんし、繰り返し噴火が起きて、溶岩が補充されなければなりません。
私たちが目にするヒマラヤ山脈や富士山は、この絶え間ない営みを続けてきた結果なのです。
ヒマラヤ山脈は今でも高く押し上げられ、富士山は歴史上何度も繰り返し噴火してきているからこそ、山であり続けられるのです。
例外的な自然の「砂山」
自然の山は巨大な岩であって、土や砂を盛り上げただけの人工の山とは根本的に違う。
ここまで、そういう話をしてきました。
最後に少しだけ補足させてください。
実は例外的に、砂を盛り上げただけの自然の山も、あるにはあります。
それは火山地形の一つで、スコリア丘と呼ばれるものです。
「スコリア」とは黒っぽい噴石のことで、空中に飛び散ったマグマが落下する前に冷えて固まったもの。
サイズは砂利から小石くらい、あるいはもっと大きいものまでさまざまです。
先ほど火山の話のところで、溶岩と一緒に火山灰や噴石も積み重なると言いましたが、スコリア丘と言うのは、おもに噴石だけが積み重なってできた山なのです。
ですから、言ってみれば砂を盛り上げただけの「砂山」ということになります。
スコリア丘は、岩盤の侵食や溶岩でできた山よりはずっと小規模であるものの、火山地帯に数多く見られる自然の山です。
日本の例を挙げると、阿蘇山の「米塚」や伊豆半島の大室山(おおむろやま)が典型的なスコリア丘。
なだらかで均整のとれた円錐形をしています。
スコリア丘の形がなだらかな円錐形であるのは、「砂山」であることと関係があります。
噴き上げられた砂利や小石が降り積もる様子は、ちょうど砂時計の砂が落下して砂山を作る様子に似ています。
砂時計の砂山では、砂つぶが転がって安定な場所に落ち着くため、急な斜面にはなりません。
途中、少し急な山になってきたかと思うと頂上から崩れ、結局は約30度のゆるやかな斜面になっていくのです。
この角度を「安息角(あんそくかく)」と呼んでいます。
スコリア丘も同じような理由で、なだらかで均整のとれた円錐形の山になっていきます。
まさに「砂山だからこその形」と言えますね。
以上、例外的に砂利や小石を積み上げただけの自然の山、スコリア丘について最後に補足しました。
参考文献
産総研地質標本館『第3話「山はどうやってできたの?」の巻』
逢坂興宏・塚本良則『自然斜面の土層の厚さについて』緑化工技術12,1-6(1987).
火山と登山『火山の基礎知識』
もっと知りたい人のためのオススメ本
渡邉克晃『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』(ベレ出版,2022)
※この記事の内容を含め、身近な地質学の話題がたくさん紹介されています。