「炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)を水に溶かし、BTB溶液(ブロモチモールブルー水溶液)を加えると何色になるか?」

・・・これ、中学2年生の理科の問題です。

答えは「青色」。つまりアルカリ性になる、ということです。

 

・・・えーと。「そんなの当たり前じゃないか」と思われた方。

かなり化学の素養がある人だと思います。

ぼくはこの問題、間違ってしまったんですね。理科教師なのに恥ずかしい・・・。

 

ぼくがなぜ間違ったのかという話の前に、まずは予備知識として、「BTB溶液」の性質について説明させてください。

BTB溶液は酸性かアルカリ性かを判断する指示薬

BTB溶液とは、酸性だと黄色、中性だと緑色、アルカリ性だと青色を示すpH指示薬(酸塩基指示薬)です。

リトマス試験紙では十分に検出できない弱酸・弱アルカリにも反応する、感度の良いpH指示薬なのです。

色の変化は下記の表をご参照ください。

表1.身のまわりの物質のpHと指示薬の変化(一部抜粋).(出典:『新編 新しい科学3』東京書籍,2017年,49ページ)

 

では、ここからが本題。

「炭酸水素ナトリウムが水に溶けるとアルカリ性」というのは、実はそんなに簡単なことではないのです。(・・・と思いたいです。間違ったので^^;)

その理由を説明しますね。

炭酸水素イオンが水素イオンを放出するなら水溶液は酸性

ぼくはこう考えたんです。

「炭酸水素ナトリウムはNaHCO3だから、炭酸水素イオン(HCO3-)から水素イオン(H+)が放出されて酸性になるはず。答えは黄色!」

 

さて、いかがでしょうか? これのどこが間違いかわかりますか?

実は、普通の条件では炭酸水素イオンから水素イオンが放出されないのです。そう、ほとんど放出されない。

 

化学の素養がある人にとっては当たり前かもしれませんが、炭酸(H2CO3)が水溶液中でどういう状態で存在しているかは、けっこう複雑な問題なのです。

候補としては、炭酸イオン(CO3–)、炭酸水素イオン(HCO3-)、炭酸(H2CO3)、溶存炭酸ガス(CO2)などが考えられますよね。

大抵の場合、これらが混在しています。

 

さて、炭酸水素イオンが水溶液中で水素イオンを放出し炭酸イオンになればめでたく水溶液は酸性になるのですが、残念ながら実際にはそうなりません。

化学式を使って、この辺りをもう少し詳しく見ていきたいと思います。

炭酸水素イオンは水分子から水素イオンを受け取って炭酸になる

まず、ぼくが最初に考えた間違った解釈はこうです。

炭酸水素ナトリウムがナトリウムイオンと炭酸水素イオンに解離し、上式のように炭酸水素イオンが水素イオンを放出する。

これだと水溶液中に水素イオンが放出されるので、水溶液は酸性になりますよね。だからBTB溶液を加えれば黄色になるはずです。

 

でも、実際には以下の2通りの反応が起こっています。

特に1番目の式に注目。炭酸水素イオンは水分子から水素イオンをもらって炭酸を形成するのです。

こうなると、水溶液中には水酸化物イオンが増える。つまりアルカリ性になる。

したがってBTB溶液を加えると青色、というわけですね。

また、2番目の式では、炭酸イオンが形成されながらも水素イオンは放出されていません

 

これが、「炭酸水素ナトリウムを水に溶かすとアルカリ性になる」の理由です。

まとめ

これまで見てきた通り、炭酸水素ナトリウムは水に溶けた時に水素イオンを放出しにくい炭酸水素塩です。(このことを「酸解離定数が大きい」と言います。)

代わりに炭酸を形成するので、むしろ水酸化物イオンが増加し、水溶液はアルカリ性(塩基性)となります。

なお、炭酸水素ナトリウムの水溶液は、pH = 8.3程度の弱いアルカリ性です。そのためpH指示薬として、弱アルカリを検出できるBTB溶液が用いられます。

追記:動画を作りました

もっとわかりやすい解説をお探しの人は、下記の記事が参考になります。

▶︎【動画で解説!】炭酸水素ナトリウムを水に溶かすとアルカリ性になる理由

スライド動画でわかりやすく解説しました。

ぜひご利用ください。