水平に積み重なったグランドキャニオンの地層
©︎PiConsti / flickr

地球上で最も完全な地層の積み重なり

深く削られた渓谷の断崖に、延々と積み重なる水平な地層。

米国アリゾナ州北部に広がるグランドキャニオンは、「地球上で最も完全な地層の積み重なりが見られる場所」と言われています。

渓谷の最下部に露出する約20億年前の地層から、最上部の約2億3000万年前の地層まで、ここではほぼ連続的に地層の積み重なりを見ることができるのです。

 

露出している地層の厚さは、平均で1200メートルほど。

最大では1800メートルにも達するというスケールの大きさです。

その迫力は写真からも伝わってきますね。

 

20億年前と言えば、地球上には単細胞の原始的な生命しか存在せず、大気中の酸素濃度がまだまだ低かった時代。

その後、およそ6億年前に酸素濃度が現代の水準に近づき、5億4000万年前ごろから、脊椎動物をはじめとする多種多様な生命が出現するようになります。

 

やがて植物が陸上に進出し、両生類や爬虫類が現れ、地球上には海にも陸にも生命があふれていきました。

そして2億5000万年前に起きた史上最大の大量絶滅。

 

グランドキャニオンの地層には、この膨大な時間の流れ、20億年にわたる地球の歴史が、ほぼ完全に記録されているのです。

 

谷底に降りれば、そこは20億年前の原始生命の世界。

そこから1200メートルほど崖を登れば、頂上付近に広がるのは2億3000万年前の、大量絶滅後の世界。

 

このシマシマの分厚い断崖は、地球の歴史を一気に駆け抜ける壮大なタイムトラベルの現場なのです。

地層は大きく2つのブロックに分けられる

およそ20億年にわたる連続的な地層が見られるグランドキャニオンですが、その地層は大きく2つのブロックに分けられます。

こちらの写真を見てください。

グランドキャニオン(サウスリムからの眺め)
渓谷の南縁・サウスリムからの眺め(©︎Luca Galuzzi / Wikipedia

 

上の方の赤やベージュの地層の下に、縞模様のないこげ茶色の地層が見えますね。

テラス状の中腹の部分から、さらに深く削り込まれている谷の部分です。

 

縞模様のないこげ茶色の地層は、おもに20億年前から15億年前くらいに形成された、とても古い地層。

一方、水平な縞模様のある赤やベージュの地層は、約5億年前以降に形成された比較的新しい地層です。

 

この2種類の地層の間には「不整合」と呼ばれる地層の断絶があって、グランドキャニオンの地層はここを境に2つのブロックに大別されるのです。

グランドキャニオンの3つの地層グループ
グランドキャニオンの3つの地層グループ(ウィキペディア

 

不整合の下側に位置する古い地層については、場所によっては12億年前から7億年前くらいまでの地層も見られます。

ですが、大まかに言うと15億年前よりも古い地層しかない。

不整合の上側に位置する新しい地層がおよそ5億年前以降のものなので、これら2つのブロックの間には実に10億年ものギャップがあるのです。

地球規模の氷河がとてつもない侵食を引き起こした

グランドキャニオンの地層を2つに区分するこの不整合は、いまだにはっきりとした形成過程がわかっていません。

およそ10億年分の地層が広い範囲でごっそりと抜け落ちているのですから、少なくとも大規模な地層の侵食があったことは確かなようです。

 

しかもこの時代の地層が抜け落ちているのは、グランドキャニオンだけのことではないのです。

規模の大きさこそ様々ですが、世界中の地層で、5億年前より新しい地層と、それ以前の古い地層との間に明らかなギャップ(不整合)がある。

 

世界中で同時期に、しかもかなりの規模の侵食が起きているわけです。

この時期、地球に一体何があったのでしょうか。

 

一つの有力な説として、全地球規模の氷河がとてつもない侵食を引き起こしたのではないか、と考えられています。

「全地球規模の氷河」と言うのは、言葉の通り、地球全体が完全に凍ってしまうことを意味します。

赤道付近まで、陸も海もすべて氷に覆われる。

 

「全地球凍結(スノーボールアース)」と呼ばれるこのような事件は、地球46億年の歴史を通じて、3回起こったと考えられています。

その時代が、ざっくりと22億年前、7億年前、6億年前の3回です。

 

厚い氷河に覆われている現代の南極大陸で激しい侵食が起こっていることから、全地球凍結の時に世界的に激しい侵食が起きていたとしても、なんら不思議ではないわけです。

いえ、むしろそれくらい破局的なイベントでもない限り、世界中で同時期に激しい侵食が起こり、最大で10億年分もの地層を削り取ってしまうということは、他に理由が考えられないのです。

 

全地球凍結の2回目と3回目、すなわち7億年前と6億年前の地球規模の氷河で、それ以前の地層が深く削られ、一度全世界の地層がリセットされた後に約5億年前の地層が形成されていったと考えられるのです。

 

グランドキャニオンの地層を2つのブロックに分けている明瞭な不整合。

およそ10億年分の地層がごっそりと抜け落ちているその境界は、単に記録が失われているわけではなく、地球規模で起こったとてつもない侵食を記録しているのです。

そしてそれは、全地球凍結という地球史の一大イベントの記録なのかもしれません。

参考文献

場所の情報

もっと知りたい人のためのオススメ本

渡邉克晃『美しすぎる地学事典』(秀和システム,2020)

Chigaku Jiten
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